ジャンヌ~森の女王~

たから聖

第1話

深い深い森の中で……

一人の勇敢な少女の

物語は、始まっていた。



月の光が…ブルーに

染まる頃…ジャンヌは森の中に捨てられたのであった。

ジャンヌは、まだ

産まれたてで…かごの中で産声をあげていた。ジャンヌの母親はなぜ森の中に赤子を…

捨てたかというと、


産んだ場所が自宅であり、ジャンヌの産まれたての顔を見るなり、ある種の恐怖を抱いていたのであった。

【後世に残してはいけない人種……】


ジャンヌの母親サリーが、バンパイアの血統の子供を宿してしまったからだ。サリーは、ジャンヌを産み落とす前から……

精神錯乱状態に陥り、


とてもじゃないが、ジャンヌを育て上げる自信も無ければ、日に日にジャンヌが、

バンパイアらしく変化していく事に…


『ついていけない。』

と深い哀しみに堕ちていた。始めての赤ちゃん…

始めて愛した男性は、自分がバンパイアの血族だと、理由を話したのは……

サリーが妊娠9ヶ月頃の出来事であり、

それまでは二人の仲は周りが羨む程で……


サリーはバンパイアの血族とは知らず、その男性シークを心の底から…愛していたのだった。

シークが何故サリーと出逢えたのか?

サリーはサリーで妖精の血族なのだが、

月が見える頃…森の中で精霊達とダンスを踊っては、仲良く暮らしていた。


サリーはある日…

怪しい月の夜、バンパイアのシークと出逢い…危険な香りがしたのだが、その妖艶さにサリーは心が

動かされたのだった。


シークの方はと言えば単なる血の吸える生け贄としか最初は

思っていなかった。

しかし、サリーの澄んだ瞳を見るたびに…

シークもサリーに、心を許し始めていた。


シークの近頃のフヌケ具合には…仲間内や家族で…問題視されていた。シークも分かりきっていた。

『いつか……別れるから…。』

そう皆には話していた。そんな二人の間に子供が出来た事を…


サリーの両親と、シークの両親とで…大喧嘩になる程で…二人は、

泣く泣く別れるしか

無かった。

『シーク、さようなら、ジャンヌ、ごめんなさい。』

サリーは妖精の力を…最大級にふりしぼり、森の中に…ジャンヌを置いていく時、


ジャンヌが皆に愛される様に…ある種の

守りの魔法をかけて…サリーは力尽き、そのまま…

亡くなってしまったのだった。


一方…バンパイアのシークは始めての大失恋を経験し…部屋に閉じこもり、

誰にも会おうとせずに、食事を取ることも拒絶し、衰弱死してしまった。


ジャンヌの両親であるシークとサリー…

二人の命が月で再度…出逢える頃に、ジャンヌは大きな使命を持って…産まれた事を…

シークとサリーの両親は気が付いていたのだった。


お互いの両親は、子供を失った哀しさから…ジャンヌだけは、

大事にしよう。と、ある約束を交わしたのであった。

『ジャンヌの自由を尊重しよう。悪いが家では混血の子は、入れられないんだ。』


『なに!ふざけるな!身勝手過ぎるぞ!娘まで人生を台無しにされ、孫までもか?!』


妖精達の苦しみから…生まれた攻撃は、バンパイアにとっては、致命的である。シークの両親は、

『こっちから願い下げだ!』とジャンヌに向け、唾を引っ掛け逃げる様に…その場を去っていった。

サリーの両親は攻撃を止め、その場で力尽き涙を流した。


『ジャンヌ……お前だけが…サリーのぬくもり…。月が見えるかい?ジャンヌ……』

ジャンヌは、その優しい語り口調のする方を向き、

ブルーの妖艶な瞳を…サリーの両親に向けた。

ジャンヌはお腹が、空いていたのか?指をしゃぶっていた。

その仕草をすると、サリーの母親…モーガン王妃は、

優しく包み込む様に…抱きしめ

『お腹が、空いているのね?待ってて。』


とモーガンは森の中に生えている、

【精霊の滴】という、解毒作用のある甘い露を飲ませ始めた。


モーガンは、ジャンヌの中に眠っているバンパイアの遺伝事態を…無くしてしまおうと、精霊の滴をたくさん飲ませた。

ジャンヌは始めてのゴハンに大変なはしゃぎぶりであった。

それからは毎日…毎日

【精霊の滴】がジャンヌのお腹を満たす食事となり……


いつしかジャンヌは、目の色だけはバンパイアなのだが、

見た目は、かなり解毒され、金に揺れる美しいロングヘアーに、

少しだけウェーブが、かかった、可愛らしい少女に成長したのだった…。

ただひとつ……

ジャンヌは満月の夜になると、やはり無理がたたったのであろう、


森に生息するウサギ達と会話しては…血を少しだけ分けてもらっていたのだった。

ジャンヌは、既に森の中では…ちょっとした女王として、崇められていた。

血を少しだけ分けてもらった、ウサギ達にはジャンヌは礼として、不思議な力を分け与えていた。

この頃…ジャンヌは、祖父と祖母が、寝静まるのを待ちわびて…

妖精達がいる森の中で…不思議な力を存分に発揮しては…血を分けてもらっていた。


祖母が、そんなジャンヌに気が付かない訳では無かった。

ジャンヌのその変貌ぶりに、祖父である王、ジミーも、気が付き始めていた。

ある日…祖父のジミーと祖母のモーガンに、ジャンヌは

呼び出されていた。

『おじいちゃん…?

おばあちゃん…何?どうかしたの?…』

ジャンヌは何故呼ばれたのか?分かって無かった。

ジミーは話を始めた。


『ジャンヌ……いつ頃から…ウサギ達の血を…?』

ジャンヌは悪びれもせずに、

『どうして?…みんなも…そうじゃないの?』と答えた。

ジミーとモーガンは、再び哀しみと、不安に襲われたのであった。


『ジャンヌ……違うんだよ。お前のしている事は…悪い事なんだよ。』

ジミーは説き伏せ様と頭を回転させている、モーガンは顔を伏せていた。


『血を分けてもらってるのが…そんなに悪い事なの?』

怪しい月の夜に…怪しい目の輝き…

ジミーとモーガンは思った。


~いつか私達も

襲われる~

そう感じた瞬間に…ジミーとモーガンは、

ジャンヌの前から消えたのだった。


二度目の捨てられた行為であったが、ジミーとモーガンは、

『今の…あの子…ケモノみたいだわ。』


ジミーはモーガンの肩を抱き寄せ、

『忘れよう。最初から忘れよう。無理な話だったんだよ。お前は良く頑張った。さぁ、森を出よう、モーガン』


二人は…危ない場所になるなと察知して…ジャンヌを森の中に、捨てたのだった。


見た目は美しい少女なのだが…中身はバンパイアそのもので…

妖精が去って行った森の中で…いつしかジャンヌは、

『ケモノ扱い』されていたのだった。


あつらえてもらった、ドレスが、ビリビリに破けて…口からは血を垂らしていた。

ただ、やたらと妖艶な見た目で…森の近くの街では…

バンパイア伯爵の娘が森を支配している。

と、いつしか噂がたっていたので…街の人達は森には近寄る事は…避けていた。


森から一歩ジャンヌが外へ出ると…街中の

ワルガキ達がジャンヌに石を思い切り投げ付けてきた。

泣きながらジャンヌは森に帰るのだが、

誰も居ない。ジミーもモーガンも…消えたのだ。


慰めてくれる相手すら居ない事に…ジャンヌは後悔しても、しきれなかった。

『たかが…血を分けてもらっただけ……』


たかが血を…?

悪い事…?どうして…?

ジャンヌは、深い哀しみに堕ちていた。

『わたしは……みんなを不幸にしてしまう。存在……なんだ。』

月を見上げると…涙が月に照らされ、ジャンヌは輝いていた。


大切なモノを…失った哀しさ、生きて進まなければ成らない、恐ろしさを胸に、

ジャンヌは森の奥で…身を隠そうと、ため息をついた。


その時…とんでもなく光が輝き出した。

ジャンヌが赤ちゃんの頃に、母親のサリーが最後にかけた魔法の力が輝き出した証拠だった。

ジャンヌは、その時…初めて自分を産んだ両親の姿を見た。

シークとサリーは、月で永遠の幸せを手に入れた事をジャンヌに、伝えた。

そして両家から大反対され、ジャンヌを宿して産み落とした事も伝えたのだった。


そして、魔方陣が鋭い光を放ち、母親サリーの最大級の魔法の力を宿した武器に変化したのであった。

ジャンヌは、その武器をクルクルッと操り始める。母親のサリーからのメッセージは……


『森を…シークとの想い出が詰まった森を…悪い人間達から…守って…いつか妖精達は、戻ってくるわ。ジャンヌ…あなたの力が必要なの……みんなを…救って……』


ジャンヌは武器を月にかざした。魔方陣のパワーを上げる為に…

ジャンヌは初めて自分の、奥底に眠っているパワーの封印を

自力で…解いたのだ。


その時…一瞬フラッとめまいがした。

不思議な力に目覚めたジャンヌは


今夜中に森を伐採する人間達が来ることも…理解し妖精達の、未来の為に…戦う覚悟を…

決めたのだった。


母親のサリー、父親のシーク……二人は…わたしを必要として、いたんだ!

わたしは……邪魔な子じゃなかったんだ!


母親と父親の痛いくらいの切ない気持ちが

分かるたびに……

ジャンヌは力がみなぎってきた。


人間達が時限爆弾を…仕掛け始めたのだが、森の奥からでも、

察知出来た。


森を木っ端微塵にする計画だと分かった時…ジャンヌはタイミングを見計らった。

爆破と同時に…時を止める力を先ずは武器に…呼び寄せた。

武器は、形を変えていた。一本化した棒の様に見えるが……


その武器を構え、ジャンヌは呪文を唱え始めた。

『我に月の力を宿したまえ……今こそ…輝きを我がモノに!』

閃光と共に、ジャンヌはさらに呪文を唱えた。

『罪無きモノに、我君臨す!力を与えん!』

ジャンヌは、月の力を一心に浴び

その武器を器用に操っていた。


人間界では12時キッカリに、時間が止まった。

皆が寝静まる頃に、人知れずジャンヌは

月の力を…自由自在に操っていた。


次に…ジャンヌが

空間移動を試みた。それは妖精達が安心して暮らして行ける様にと……

ジャンヌの思いやりであった。

先ほどの…月の力で、掛けた時の止まる魔法が切れかけてきた。


焦りは禁物…。

ジャンヌはさらに武器を変化させた。武器の形は今度は…弓の形をしていた。

再度…月に力を借りようと呪文を唱え始めた。

っ!と…その時…!!



つんざく音が…ジャンヌに向かって一発入った。ジャンヌは心臓近くを撃たれた。


人間達が、ジャンヌの姿を見るなり……


『化け物だーー!!撃てー!撃てー!』



ジャンヌの月の力は…不慣れという事と……

力足らずと…悲しいかな途中で、力が…

途切れてしまったのだ。


だが、ジャンヌは諦めなかった。さらに呪文をパワーアップして…唱え始めた。


人間達から見ると…ジャンヌはもはや何の生き物か?……ジャンヌの姿は変わり果てていた。


人間達は、ジャンヌに追い討ちをかける

様に……ダイナマイトを仕掛けていた。

『こんな森くそくらえだ!!』

人間達の誤った価値観で、森は消えかけていた。



~あぶない!!~

ジャンヌは最後の力をふりしぼり…呪文を始めた!


『神よーーーっ!

我に……っ我に最後の願いを…!!』

ジャンヌは呪文の途中で…口からは血を…

吐いていた。


意識がもうろうとしてきた……

ダイナマイトが爆発寸前…!!


真夏なのだが、雪が、舞い降りて来た。

ジャンヌは本当は…皆と楽しく幸せに、

暮らして行きたかった。


舞い降りて来た雪は…ジャンヌの頬をつたった。


その時…精霊達の

声が聞こえた様な気がした……。


『~ジャンヌ……

ジャンヌや……。』


『お……おばあちゃん……みんなと……

あ…ありが……。』


その瞬間…ダイナマイトが爆発した!!


街中に響く爆発音…。


ジャンヌの体は…ダイナマイトと共に、

異空間へと飛び散っていた。


肉体が無くなったジャンヌは、

バンパイアにも…

妖精にも慣れなかった。


『月は……サリーと…シークの場所……』


わたし…の…居場所…

おかあ……さん…。


おと……さん……

また……会お……。



ジャンヌが亡くなる前に降り始めた雪は…

森を美しく… 彩っていた。




いつしか、時を経て…【戦う精霊ジャンヌの森】と…人間達の間でジャンヌの死後…


尊敬されていたのであった。


その場所にある看板には…

【月からの使者。

ジャンヌ。愛ある生涯…。皆に幸せを。】



と書かれていた。




~完~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ジャンヌ~森の女王~ たから聖 @342224

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ