異世界に転生した俺の物語
溱瞬
ルイの物語
第0話 始まり
その時の自分はきっと、どうかしていたんだろう
真っ暗な夜、十路地に跨る信号機のない横断歩道
そこに走るトラック
プーッ!!
眩い光と、クラクションが街に鳴り響く。
それに気がついた時にはもう遅すぎた。
「あ、死んだ」
瞬間、体は飛ばされ宙を待う。飛んだ体が無惨にも地面に叩きつけられ、倒れたあたり一面には『赤』が広がる。あまりにも綺麗なその赤に見惚れていると、だんだん自分の意識が薄れていくのがわかる。
ああ、もう、だめなのだろう。硬いアスファルトに寝そべる自分には、それがはっきりとわかった。
このまま死んだら、自分はどうなるんだろうか。
意識がこの世を彷徨い続けるのだろうか?もしくは天国や地獄に堕ちるのだろうか。
それともなろう系の主人公みたいに最強でかっこいい主人公になって、美女に囲まれてウハウハできるんだろうか。
そんな妄想をしても死ぬのが怖い。
全身痛いし体は自分の意志に反して動こうとしない。
意識ももうすでに無くなろうとしている。
今この状況で冷静なのはまだ死にたくないと思っているからこそだ。まだ自分には未来があるって期待したくて。
異世界に転生とかそんなこと、あるはずないのに。
体に風が当たる。少し肌寒い。
「ぶ、ぶぇっくしょいッッ!」
勢いよくくしゃみをして目を開けた。そこは一面鮮やかな緑に包まれた野原だった。
「…ここどこだ?」
鼻水を啜りながら辺りを見る。そこに広がっていたのは草原だった。
だだっ広い野原の辺りは木で囲まれていて、建物は見つからない。人のいた跡も見当たらない。少なくとも、どこかのレジャースポットではなさそうだ。
しばらく何もわからないまま、ただ呆然としていた。
しかし待っていても何かが変わるはずがなく、思い切って立ち上がる。
とにかくこの何もない野原から抜け出そう。そう思って歩みを進めた。
♦︎
鬱蒼と生い茂る木々をかきわけて、森の中を進む。
しかし進んでも進んでもそこにはただ延々と森が続いているだけだった。光が所々に差し込み、川のせせらぎや鳥が鳴く声が聞こえる。
キャンプとか、友達と観光でとかで来て迷子なった〜とかだったらいいのにな。そう思いながら淡々と奥へ進む。
森を永遠と進む間に、頭がスッキリして今の状況を自分の中で整理できるようになってきた。
水も食糧もなく、一刻も早く抜け出さなければいけないこと。動物がいて夜になると危険だということ。当たり前にわかることを今ようやく理解し始めた。
しかしそんな中、問題があった。それは以前の記憶は一切思い出すことができないということ。なぜあんなところにいたのか?一人であそこにいったのか。それどころか自分が起きる前のことはおろか、名前すら全く覚えていないことに気がつく。
ゾワッと寒気がした。
自分の記憶が、消えている。
焦る気持ちを抑えながら森を進んでいく。
出口に着くのはいつだろうか…
♦︎
あれから必死に歩いた。それはもうとにかく必死に。
それ比例して体は確実に疲れてきていた。もう何分歩いたか、時間さえわからない。歩くだけで足がもつれてきた。
一体いつまで歩けばいいのだろうかと、途方に暮れてた。
そんな時何やら自分の左側からガサガサッと草木の擦れる音と、べちゃべちゃと液体の混ざる音が聞こてくる。
熊か何かか?と警戒しながら音のする方見つめる。だがそれはこちら側に動こうとはしない。
…どうやらこちらに気づいていないらしい。ほっと胸を撫で下ろし、それ手に気づかれないようゆっくりと足を進めた。
刹那
ボキボキッ
何かが折れる音がする。
おそらく小枝だ。
息を呑む。
…完全に気が緩んでいた。
横から、再びカサカサと音が聞こえる。音の方を見るとやはり草むらの中のナニカがこちらに向かっていた。
バレたのだ。
ネットで見た知識だが、熊は走らずに相手の方を見ながらゆっくり後ずさるのが最善策のはずだ…
ゆっくり足を後ずさらせながらも、警戒しているとついに『それ』が出てくる。
一瞬で自分はそれに目を奪われた。『それ』は熊なんかではなかった。
それは動くはずも、森に存在するはずもないスライムだった。よく見かける市販のものよりも数十倍大きく、生き物の様にに自我を持って動いた。スライムは俺を見る?なり地面を数回飛び跳ねた、
その姿はまるでロールプレイングゲームに出てくる敵のようで、俺の目は釘付けになる。スライムは飛び跳ねる度、ぐちゅぐちゅと音を出すと深海のように美しかった青色が次第に赤黒く変色していく。頭に警報がなった。
これは完全な敵意だと、このままだとコイツに殺されると本能的に感じてしまう。
まずい。
戦わなければいけないとは頭では理解したが、自分の体は正直なもので先程からピクリとも足が動かない。何より、今の事態に脳が追いついていなかった。
よくわからない場所で、あるかもわからない出口を求めて歩き続け、訳の分からない生物に襲われる。自分で言っていても意味のわからない状況に脳がショートして涙が出てくる。
スライムは怯える俺を見て完全に舐めているのか、ゆっくり、ゆっくりと近づいていく。正直漏れそうで仕方なかった。
あ…死んだ。これ…
心の中で荒ぶりながらも、怖くなりすぎて腰が抜ける。
地面に倒れて見るスライムはさらに大きく見えた。
恐怖を感じると同時に自分の声とは思えない情けない声がでる。
「うぎゃああああ!!助けてぇ!あぁぁぁ…!」
これが、この叫びが最後の希望だった。
もし、これが漫画で俺がモブだったらここで主人公が声を聞きつけ、敵をぶっ倒して、俺の手を取ってくれる。…なんて妄想していた。
だけど、妄想は妄想で、こんな変な森に人なんかいる訳がなく自分の情けのない声がただ森に響くだけだった。
ああ、もう多分だめだ。なんとなく察した。
最後に何か…と声を絞り出す。
「あぁ…お、俺また死ぬのか…どうせ死ぬなら異世界に…」
そう言い終わった所で、自分自身の発した言葉に違和感を覚える。
「…って、ん?〈また〉ってなんだ?」
何かが俺の中で目覚めようとしていた。
『俺…あそこで目覚める前何してたっけ…?』
紐がスルスルと解けていく。
脳がピリピリして自分の頭に手をあてる。
スライムは俺の足に纏わりついていきた。
瞬間だった。
「あ、赤」
スライムのドス黒い赤色が自分の目に焼き付く。
すると俺の視界が一瞬暗転する。
♦︎
見覚えがあった。暗い夜道、横断歩道を歩く男。そこに通るトラック…
全て、見覚えのあるその描写が鮮明に映し出される。
周りの叫び声、表情、全て。
ハッと意識を取り戻す。
それはまるで映画を見ているような感覚だった。現実味が帯びないそれは、しっかりと脳に刻まれている。
手は震えていた。
また、こんなところで本当に人生を終わらせていいのだろうか。やりたいことだってたくさんあるのに、本当に諦めていいのだろうか。
全身に血が駆け巡る。何かが自分の中で溢れだしてくる。
スライムは変わらず俺の靴にまとわりついていた。
「…」
勢いよく立ち上がると俺はそのスライムを勢いよく蹴り上げる。
「こんなところで!死ねるかぁぁぁ!!!」
俺は大声で叫び力の限り靴ごとスライムを勢いよく遠くにぶん投げた。
遠くへ飛ばされたスライムを確認すると、反対側に向かって全力疾走する。左足は靴下のままだから小枝やら石がよく刺さる。
でも今はそんな痛みも気にせず今は生にしがみつくことに必死になっていた。
あれからもう何分たったのだろう。そろそろ体力が底をつきそうになってきた。
「っはぁ、はぁ…あーあ、あの靴お気に入りだったのにな…」
ぽつりと呟いた。
あぁそうだ、あの靴はすごく大事な靴だった。…気がする。
体力の限界から遂に足が崩れそうになったその時。目の前に一筋の光が見えた。
それは、間違いなく奇跡だった。
感動と疲労から今にも崩れ落ちそうな足を木に捕まって無理矢理立たせる。
足はガクガク震えていた。
なんとかして少しづつ光の方へと進む。
ようやく光の中に入ると…
「どこだ…?ここ。」
森の先は下り坂になっていて、その先に広がっていたのは「全く知らない」賑わった街だった。
いや、単に知らない土地だったんじゃない。
目の前に広がっていたのは光景は箒で空を飛ぶ人間、浮かぶ大時計、そしてその街の、ずーっと先の坂の上にはまるで映画に出てくるような豪華な城が建っていた。
元の世界とは全く違う光景に手が震える。というか疲れで全身が震えていた。
頭が回らないながれ、今のこの状況を考える。
すると一つの可能性に辿り着く。
「ハ…ハハ…俺、遂に、異世界きた…!」
最後の力を振り絞って拳を突き上げると、俺の体は完全に機能を停止した。
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