反作用
午前9時~正午 6人
午後1時~午後6時 10人
たまに予約キャンセルもあるが、最近はキャンセル待ちの人も来るくらいだ。後払いの祈祷料は、全員が1万円という訳ではないが、1日に
予約が半年先まで埋まっている事を考えると、そろそろ会社を辞めて独立してもいいかと思う。日曜日だけの営業を平日の月~金にして、1日平均3万円の祈祷料があれば、週間15万円。月間60万円だ。年間720万円なら家賃を払っても、客が増えているこの流れなら、いけそうな気がする。
俺は電卓を
早速、俺は部長に退職を申し出た。
俺は係長なので、本来であれば、課長に話をするべきなのだが、この課長は使えない奴だ。社長の
「実は、実家から地元に帰って、本家の神社を
「いや、ご実家の事はわかるが、今、辞められては困るよ。知っているだろ。課長が使えないから、君がいなくなったら、部署が回らなくなる」
「そう言われましても、
「それはわかるんだが・・・。くそぁ。あいつさえ、いなければな。上も人を回してくれるだろうに」
そうか。あいつさえいなければ、円満退職させてもらえるのか。
「まぁ、
勤務時間中だったので、退職の話はそこで保留となった。
実家の神社をうんぬんは、
俺は急に、
祈祷という言葉には、神仏に願いを伝えるという意味もあるが、自分の心からの願いや思いという意味もある。
人の願いには、プラス面もあれば、当然、マイナス面もある。すべての人が聖人君子ではない。
「あいつさえいなければ」
「あの人が病気になれば」
「正妻に後継ぎが生まれなければ」
「没落しろ」
そんな願いも当然あっただろう。人の願いなんて、昔も今も変わらないのではないだろうか。
「係長、辞められるんですか」
柄にもなく、人の心の闇について考えていると、部下に小声で話しかけられた。
「ああ、急に実家の神社を継ぐことになってな」
「そんなぁ。係長がいなくなると、仕事が回りませんよ。今でさえ、回ってないのに」
「上が何か考えてくれるそうだ」
辞めると決めた以上、会社がどうなろうと知ったことではない。ただ、残る部下達の事は、少し気がかりだった。
俺は、以前、読んだネット小説の事を思い出した。聖魔法の逆転作用で、相手を傷つけたり、病気にできるという話だった。そういう設定の小説を幾つか読んだことがある。
そういえば、あの課長は、腰が悪いと言っていたな、よし。
「一生、歩けなくなるくらい、腰痛が悪化しますように」
俺は、課長に対して、そう願った。神仏に人の不幸を願うのは間違いだが、自分で祈る分には、かまわないだろう。
***
翌日から、課長は出社しなくなった。部長には、ぎっくり腰だとの報告があったそうだ。
俺は、行ってないが、1週間後に親戚の社長と部長が見舞いに行った時、とても仕事ができる状態では、ないと判断されたようだ。
俺の能力は、人の怪我や病気を悪化させる事が出来る可能性が出てきた。しかし、これは、検証のしようがないし、
それに人を悪化させるメリットが俺にはない。今回の課長は特別だ。1回、数千万円の依頼料で人を撃つ、裏の狙撃手のように、金を貰えるなら受けるかもしれない。
課長が出社しなくなったことで、すぐに人事異動があり、新たな課長が配属された。俺の退職も家業という事と、宗教関係であるのを嫌がった部長の進言で、無事に受理された。
俺の退職日は2か月後となり、その間に、後任となる部下に、引き継ぎや仕事を仕込む事になった。
「係長が辞めるなら、私も辞めます。一生、係長に付いていきます」
これが小説なら、若い女性の部下が、こう言いだす展開もあっただろうが、俺には人望も、モテ要素もなかった。
元課長が、その後どうなかったのか、俺は知らない。
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