7. 希羅斗《きらと》をめぐり......

 希羅斗きらとの転校初日そうそう、こんな事態になってしまったから、心配で芹花の方を向くと、驚いた様子で3人のやり取りに見入っている。

 理解に苦しむけど、希羅斗きらとに一目惚れしたくらいだから、この状況は、きっとショックだよね......


 他校の女子が、希羅斗きらとを追って現れたのだって驚きだけど、それだけでなく、初日から急接近していた磯前いそまえさんと早速付き合い出すとかって。

 その中に加わってライバル争いするような状況も与えられないまま、希羅斗きらと磯前いそまえさんのものになるのを指くわえて見ているしか出来ないんだもん。


 こんなに芹花だって可愛くて性格良いのに......


 この他校の女子も、ハデ目でキレイだけど、磯前いそまえさんには勝ち目無いし、転校して距離も開いたなら、諦めるしか無いのかも。

 

「ウソでしょう!ちょっと、その女子、今日知り合っただけのクセして、いい加減な事言わないで!ねえ、希羅斗きらと、私とまだ交際中だよね?」


 ケンカを売るように磯前いそまえさんに言って、希羅斗きらとに確認した他校の女子。


 何、この展開?

 バリバリ恋愛系の学園ドラマみたい。

 主役は希羅斗きらとっていうのが、興覚めだけど。


「ゴメン、仁姫にき。マジで彼女と付き合い出したんだ。もう元の中学の事は振り返りたくないから、連絡もしてなかった」


 勝手に自然消滅を狙っていたんだ、希羅斗きらとの卑怯者!

 ここまで追って来た他校生の彼女が可哀想......


「そういう事なので、お気の毒だけど、諦めてね!」


 そう言いながら、わざとらしく希羅斗きらとと手を恋人繋ぎして見せた磯前いそまえさん。


 本気なのかな......磯前さん?


希羅斗きらとなんか大キライ! もう、私、敬太けいたと付き合う事にしたからっ!」


 あれっ、なんだ、ちゃんと予備軍もいるわけね。

 そういう人なら自業自得かも。

 希羅斗きらとも、もしかして、自分が二股かけられていた事を知っていた?


「思わず、アドリブしちゃったけど、迷惑だった?」 


 他校の女子が走り去った後、磯前いそまえさんが繋いでいた希羅斗きらとの手を離して尋ねた。


 な~んだ、演技だったんだ~!

 本気にしちゃって、何だか損した!

 芹花もホッとしてる、良かった。


「いや、助かった。サンキュー」


「何なら、本気で私と付き合ってもいいんだけどね」


 どこまで本気か分からない磯前いそまえさん。


「転校初日から、クラス中の男子を敵に回したくない」


 やんわりと断った希羅斗きらと


「そうなの? 残念! クラスに溶け込む頃まで待とうかな~!」


 あれっ、引かない。

 って事は、わりと本気なのかな、磯前いそまえさん?


「はい、終わり! 野次馬達、解散しろよ!」


 気付くと、私や芹花以外にも、興味本位で希羅斗きらと達のやり取りを観覧していた生徒達が沢山群がっていた。

 転校生というだけで一目置かれるけど、希羅斗きらと磯前いそまえさんは外見上、人目を引かずにいられない。

 下校時の大勢の生徒達が素通りする事が出来なくても当然。


「それじゃあ、また明日ね、愛音ちゃん」


「うん、バイバイ、芹花」


 転居前までは、芹花と同じ方向に歩いていたのが、1人となった下校は寂しい。

 芹花もきっと、そう思っているよね?


 ......と、芹花の方を見たら、芹花びいきの男子達が護衛するようにゾロゾロと付かず離れずの同じペースで歩き出していた。

 そうだよね、磯前いそまえさん並みに、芹花もモテるもん。

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