行き過ぎた花嫁修業が嫌になったので隣国に逃げ込んだら、幸せなお姫様になりました:似

仲仁へび(旧:離久)

第1話




 周囲を窺って、人目がない事を確認した私は、一心不乱に逃げ続けた。


 私はとにかく逃げる。


 逃げなければならない。


 もう、あんな場所にはいられないのだから。


 あんな王子の妻になるくらいなら、あんな事が当たり前になっている王宮の中で姫として生きるくらいなら、命をかけて逃げ出した方がマシだ。






 こんにちは王子様。


 この手紙がそちらに届く頃合いは、お昼頃になるでしょうね。


 王子様の成人式が行われる頃合いの。


 そんな素敵な時に、この手紙を読んでいただけるなんて、とても嬉しいですわ。


 私はあなたの国のお隣さん、隣国にいます。そしてなんと、その国のお姫様になる事が決まりました。


 その国の王子様と出会ったきっかけは、道端で偶然であって意気投合したという、嘘みたいな話です。


 それから、色々と交流を深めたすえ、彼と婚約を結ぶことになったんです。


 もうじき結婚式も挙げるんですよ。


 ぜひ、見に来てくださいね。


 本来なら、私が貴方のお姫様になるはずだったんでしょうね。


 ただの庶民であった私を、あなたがお城につれかえって、あれこれ念入りに教育を施してくださいましたからね。


 おかげで、とても大変な思いを強いられました。


 間違えたらビリビリする首輪ってなんですかあれ。


 犬や猫、家畜じゃあるまいし。


 いいえ、それらにも普通しませんよね。


 拷問でしょうか。


 寝ずに勉強しないと、棘がささる指輪ってなんですか。


 おかげで私の指には跡が残ってしまっています。


 そちらの国の習慣では女性は手袋をはめて過ごさなくてはならなかったため、人目につく事はありませんでしたけれど、こちらでは多くの人を心配させてしまっていますよ。


 ともかく。


 色々ありましたが、そんな環境から脱走できてよかったです。


 こちらの国では良い人と出会えましたし。


 私はもうまともな王子様のお姫様になるんですから。


 ちなみに彼は、貴方とよく似た境遇みたいですよ。


 両親をなくし、腹黒い親戚も頼れない。


 孤独な身だったそうです。


 けれど、ぐれずに一生懸命に頑張って、良い王子様になりました。。


 貴方と同じように、子供の頃に無能王子の烙印をおされていたみたいですけど、努力して見返すまでに成長したんです。


 そんな彼は貴方と違って、本当に、素敵な人です。


 境遇は似ているのに、どうしてこんなに違いがでてきてしまうんでしょうね。


 短くすませるつもりが、ずいぶんと長くなってしまいました。


 これ以上続きを書いても、自慢にしかならないので、手短に本題を書いておきますね。


 貴方でも分かるように、必要な所だけを書きますね。


 私と貴方との関係はもうなくなりました。


 けれど、噂をながしたり、呪いの品物を送り付けてきたり、くだらない陰謀で私と王子様の婚約を破棄させようと試みた、貴方への恨みをくらいなさいな。







「うわっ、会場から煙がっ!」


「火が出ているぞ!」


「逃げろ!」


「誰か水をもってきてくれ!」


「見ろ! 王子の像が、激しく燃えているぞ! 内部に爆発物でも詰まっていたのか!」


「あの女ぁ! 俺の顔に泥を塗るように逃げ出したばかりでなく、こんな性格の悪い嫌がらせをしてくるか! あああ、せっかくお金をかけて豪勢に作った会場が、なんという事だ!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

行き過ぎた花嫁修業が嫌になったので隣国に逃げ込んだら、幸せなお姫様になりました:似 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ