暴虐の限りを尽くす最強王国の王の息子に転生した僕が、隣国の姫たちに優しくしたら、結婚を迫られるんだけど……
なるとし
1話 専属メイド・セーラちゃんの危機
「気をつけてお帰りください!またきてもいいので!」
「やっぱり私に親切に接してくれるのは誠司ちゃんだけだから……ありがとうね!」
と、僕はこの役所でモンスタークレーマーと呼ばれるおばさんに手を振って別れの挨拶をした。おばさんの姿が消え、やがて上司が僕のところにやってくる。
「いや〜今日も山岡くんのおかげで事なきを得たよ!本当にすごいね、君は」
「い、いいえ。僕は当然のことをしただけです!」
僕の名は山岡誠司。社会人1年目で、この役所にやってくるクレーム客の対応に当たる窓口で働いている。
「今回は頻繁にやってくる危険度マックスのモンスタークレーマーだったのに、こんなにあっさり帰すなんて……やっぱり君を雇って正解だった」
「ははは……褒めても何も出ませんよ」
僕は、クレームへの対応能力がいいらしい。大学時代は、しばしばこの役所でアルバイトをやっていたのだが、偶然クレーム客を捌く姿を上司さんに見られここで働くように勧めてきたので卒業後そのまま履歴書を提出し、今に至るわけだ。
「あ、もうこんな時間か。山岡くんは今日頑張ってクレーム客を捌いてくれたからもう上がってもいいよ。残りは俺がやっとく」
「ありがとうございます!それじゃお先に上がらせていただきます!」
そう笑顔を向けて僕は帰路に着く。
「本当によくできた子ね」
「うんうん!山岡くんのおかげで、他の上司の業務効率もぐんと上がったよ!」
「忙しい時に、クレーマー来たら、地獄絵図だもんな」
上司たちがこそこそ話す声を小耳に挟みながら、むず痒さに苦笑いを浮かべて役所を出た。
僕はこの仕事に満足している。ここに来たら、いろんな人の話を聞くことができるから。いくらモンスタークレーマーと呼ばれる人であっても、話をちゃんと聞いてあげれば、笑顔になって僕を可愛がってくれる。そして、僕の知らない世界に、人のストーリーに触れることができる。
僕はこの仕事にやり甲斐を感じている。
ずっとこの
突然大型トラックが物凄いスピードでやってきて
僕を
一瞬のことだったので、痛みは感じられない。
ただ、真っ白に変わってゆく意識の中である声が聞こえてきた。
「誠司くん……君の優しい性格で異世界を救ってほしいの」
「え?」
女の子の声。だけど、見えるのは白い背景で、どこから聞こえるのか分からない。
「誠司くんには、絶対暗殺されない加護を与えるから、三つの王国の姫たちと仲直りして、結婚をして異世界を救ってほしい」
「なんの話ですか?」
「誠司くんが転生すれば、全部わかるようになると思う」
「あの、話が全然見えないんですけど……んん」
やがて、僕は意識を完全に失った。
X X X
イラス王国
目が覚めた。おそらく朝だろう。それと同時に、イラス王国の王子・エリックとしての自我が頭に刷り込まれてしまう。
ここはオリエント大陸にある最強王国として有名なイラス王国で、僕はこの国の王の息子だ。
普通、王子という存在は、恵まれた特権階級の頂点に君臨するもので、誰もが羨むような贅沢な生活をしているはずだが、このエリックの過去は血に染まっていた。
王位をめぐる争いが起きたせいで、親戚と官僚たちがタッグを組んで王位継承順位一位である父上を暗殺しようとした。
父上は
そんな辛い過去を思い出してはため息をついてみる。
すると、急に誰かがドアを叩く音が聞こえた。
「朝ごはんをお持ちしました!」
「……入って」
「はい!」
すると、ドアがゆっくりと開けられ、ワゴンを押しながらやってくるかわいいメイドの姿が目に入った。
名前はセーラ。年齢は16歳。田舎の平民出身で、親が病気にかかり、弟と妹を養うお金がなくなったため、給料のいい王宮メイドになったらしい。三つ編み二つ結びのブラウンヘア、栗色の瞳、幼い顔、Cカップほどの胸。外見は王宮メイドとして申し分ない。
「では失礼します!」
そう言って、セーラはお仕着せのおしゃれなメイド服姿で朝ごはんをテーブルの上に置く。
だが、その手と身体は震えており、下手したらそのまま倒れてしまいそうだ。
なんであんな動きをしているのか。それは記憶を遡ればすぐわかる。
『
『ごめんなさい!』
気分が悪くなれば、一番手が届きにくそうなところに指をなぞり、埃を見せつけセーラを叱ったり。
『この料理の中に毒、入ってないよね?』
『入ってません!宮廷料理人の方々が綿密に確認しましたので!』
『もし、僕の体がおかしくなったら、てめえの家族と親族を皆殺しにしてやる』
『……』
過去のトラウマが原因で、セーラにヒステリーを起こしたりと、過去のエリックという男は、数え切らないほどセーラの心を傷つけてきた。
セーラだけじゃない。エリックの専属メイドをやっていたものはみんな、メンタルが崩壊し、王宮を去った。残ったのはセーラだけ。
ひどいことをしたと思う。
僕はセーラの華奢な体を見てつい、涙が出そうになった。けれど、ここは我慢だ。我慢。
そう自分に言い聞かせていると、
事故が起きた。
「きゃっ!」
セーラが手を滑らせてスープが入っている皿を落とした。そのせいで、皿が割れ、中身がテーブルの上と床の
「も、申し訳ございません!!!!!!!!」
「……」
「エリック様の大事な朝ごはんを……しかも、最上級の
「……」
「家族……皆殺しにされちゃう……お父さんもお母さんも妹も弟も……」
セーラは真っ青な顔で口を半開きにする。そして、涙が頬を伝い、床に敷かれた絨毯を濡らした。
「あ、だめなのに……最上級絨毯に私みたいな
心が締め付けられるほど痛かった。こんなのは……もう見てられない。
気づいたら、僕は、ベッドから降り、恐怖と悲しみに身悶えするセーラに近づき
後ろから優しく抱きしめてあげた。
「っ!」
追記
異世界転生の流れには逆らえぬ
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