学校の帰り、近所の公園に寄り道。


「にゃーん」


猫の鳴き真似をしながらいつものベンチに腰掛ける。ランドセルを降ろして周りを見渡した。茂みががさがさと動いて、白い毛が姿を現した。


「ネコちゃん!」


んにゃあ、と返事をするように鳴いて、こちらに寄ってきた。優しく背中を撫でるとベンチに飛び乗って少女の膝の上に座る。


「かわいいね」


その空色の瞳を覗き込んで微笑む。いつものこの時間だけが彼女の癒しだ。


「あのね、今日は……」


 うとうととしている猫に向かって今日一日の感想なんかを話す。昼休みのことや、給食のこと。授業が楽しかったこと。他愛もない日常の話を何も言わず聞いてくれる猫は一番の友達だった。


時には猫じゃらしなんかをちぎって一緒に遊ぶこともあったが、最近そんなことは中々ない。




「あっ」


 いつの間に時間は過ぎ去って、十七時の音楽が流れ始めた。そろそろ帰らなきゃ、と膝の上の猫を地面に降ろす。最後にもう一度背中を撫でると、猫はどこかへ帰って行った。


「また明日ね」


 ランドセルを背負って走り出す。早く帰らないと、お姉ちゃんが待ってる。暗くなりつつある空の下、少女は公園を飛び出した。




「ただいまー!」


 ドアを開け、靴を脱ぎ捨てて真っ先に姉の元へ向かう。ばたばたと大きな足音。姉はむっとした顔で少女を出迎えた。


「走っちゃだめでしょ、ご近所さんに迷惑かけちゃう」


「ごめんなさい」


 しゅんとしつつも、洗面所で手を洗ってリビングの椅子に座った。机の上には姉の作った晩ご飯が並べられている。彼女は姉の作る料理が大好きだった。


「いただきます」


「どうぞ」


 もぐもぐとハンバーグを頬張る。姉はスマホを見ながらゆっくりと食べていた。お母さんは、ごはん食べながらべつのことしたらダメって言ってたけどなぁ。




「ごちそうさま、お姉ちゃんおふろいっしょに入ろ!」


 食器の片付けを手伝いながらねだる。


「もう三年生でしょ?そろそろ一人で入れるようにならないと」


「でも……」


「お姉ちゃん忙しいから」


 そう言って姉は部屋にこもってしまった。そういえば学校がたいへんだ、って言ってたような。がまんしなきゃ。一人で入るお風呂は寒くて、なんだかとても広かった。




両親のベッドに寝転がって、布団を被る。少し前まで姉と一緒に寝ていたベッド。少女には大きすぎた。


「……さむいよ」


 小さく呟いて、猫のように丸まって寝た。




 次の日、また公園に寄り道。ベンチに座ってランドセルを降ろす。どこからかまた猫が現れた。


「ネコちゃん……」


 そっと撫でようとすると猫はベンチに飛び乗り、そこに丸まる。


「ネコちゃんはいつもひとりだね」


 その空色の瞳が少女をじっと見つめる。静かな公園に一匹と一人。


「わたしもだけどね、ネコちゃんがいるからさみしくないよ」


 一粒、涙が零れ落ちた。


「……さみしくないもん……」


 声を抑え、静かに泣き出す。白猫はただ、寄り添っていた。

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