それは柿から始まった ~お漬物ものがたり~

こんにちは&こんばんは。

田舎の嫁(見習い)やっています、小烏と申します。


 世の中がサッカーワールドカップに燃え始めていた頃、小烏家では柿フィーバーに燃えておりました。

我が家の柿が夫の思い切った剪定の影響で実が4つしか成らなかったことを知ったご近所から甘柿、渋柿がわんさかやって来たのです。


 渋柿はヘタのところを焼酎(リキュール)にチョイっと浸けてビニール袋に入れて縛っておけと、柿を持ってきてくれた方から聞いて早速やりました。

干し柿もやってみたかったのですが、義母から「この辺りはいい風が吹かんからうまく出来んわ」といわれ、断念。


 毎日柿を剥き、柿を食べる日々。

怒涛の柿尽くし。

美味しく幸せな日々。

漬け物に入れると甘味が出ると夫の仕事仲間から聞き、剥いた皮は全部ザルに広げて天日で干しました。


 ある日夫が大根を抜くと言いました。

職場の漬け物名人から漬け方を教わったので、漬物にするのだそうです。

今年は大根の成長が早く12月頭にはすくすく育った何本かは、スーパーで見かけるものの2倍ほどの太さ。

おとなの太ももくらいになっていたのです。


 畑からヨッコラショと大きな(カブならぬ)大根を何本か抜き、水場で葉を切って泥を落とし、四つ割りにしました。

大根を干すために夫と割った大根を紐で縛っていると、義母がやってきて

「4つ割りでは乾かんから、細い輪切りにして紐を通したらええのに。」とアドバイス砲を打ちましたが、夫は

「乾かんかったら塩で下漬けするわ。」と迎撃。


 実は義母はこの辺りでは料理上手、漬物名人と名をはせていました。

しかし数年前から手間のかかる漬物から手を引き、3年前脳梗塞で片足を引くようになってからは漬けるのを止めてしまっていたのです。

一方2年前同居を始めた夫は、去年食べきれなかった白菜を漬物にしたところ、食べた人から絶賛され今年もやる気になっています。

(この数日前に白菜も下漬けしました)


 新旧漬物王対決なのか?と身構えましたが

「好きにすればええわ。」

と、旧王者が下がります。

すでに4つ割りにした後だったので、今更と思ったのかもしれません。


 大根を干すこと10日。

珍しく日差しにも寒風にも恵まれ、大根はぐにゃりと曲がるくらい乾きました。


 「そろそろ漬けるかなぁ。」

夫が決断を下した時、一番に反応したのは義母でした。

軒下に下げている大根をおろすように言い、おろした大根を夫と競うように紐から外していきます。


 「おかあさん(小烏のこと)、精米機のところから米ぬかをもらっておいで。」

小烏は一輪車で100メートルほど先のコイン精米機まで出向き、建物の裏から土嚢袋いっぱいの米ぬかをもらってきました。

帰って来た時夫は紐を片付け、義母は大根からにょきっと伸びた乾いた根っこを力強く引きちぎっている最中でした。


 「タライ出して。」

義母がテキパキと指示を出します。

義母、ヤル気満々です。

義母の指示に従って出した大きなタライに、小烏が米ぬかをパフパフ入れていきます。

夫が電卓を片手に

「大根の重さが10キロほどだから、混ぜる塩は…」

と計算を始めるのを

「そんなん、舐めてみたらわかるわ。」

と止める義母。

義母のストップがかかるまで、塩を入れ続ける小烏。

途中米ぬかと塩を混ぜながら何度も舐める義母。


 「ん、こんなもんか。」


 つぎは砂糖です。

夫の要望で買っていたザラメの袋を開けます。

またしても計算しようとする夫と、舐めたらわかる派の義母。

義母のストップがかかるまで、ザラメを入れ続ける小烏。

米ぬかと混ぜながら何度も舐める義母。

ザラメは粒が大きくてなかなか義母の舌に乗らないようでした。


 袋の1/3程入れた時、

「あ、甘いのに当たったわ。

もうええじゃろ。」

と、義母からストップがかかりました。


 「もう少し砂糖はいるんじゃないか。

これ、ザラメだし。」

と夫から口が挟まれましたが、


「ええ、ええ(もういらない)。」

と旧王者は自信を覗かせます。


 冷蔵庫で出番を待つ干した柿の皮と、香りづけの柚子の皮を大急ぎで用意して作業小屋に戻った時は、すでに大根の半分は糠とともに漬け樽に横たわっていました。

ちらちらと唐辛子の姿も見え隠れしています。


 あ、待っててもらえなかったんだ…。


 大急ぎで、柿の皮とゆずの皮を糠の上に撒きました。

残りの大根と糠、柿と柚子の皮も交互に重ねます。

最後に空気を抜くように袋を閉じて、樽を漬物小屋に移動しました。


 漬物小屋は冷暖房完備で四畳半ほどの広さがあります。

今は一年分の玄米(30㌔袋)の置き場となっていますが、昔はたくさんの漬物樽、味噌樽でぎゅうぎゅうになっていたそうです。

今は塩漬けのタケノコが一樽あるだけ。

重しの石と間に咬ませる木の板はたくさん並べてあります。


 適当に石を乗せようとする夫を止め、どの石をどのくらいどの順番で乗せるか、義母の知恵が発揮されました。

さすが元漬物名人。

義母は石の傾斜も熟知していて、大根が潰れていくとき石がずれないように細かな調整もして見せます。

後は時間が仕事をするのを待つだけです。


 片付けで糠と塩、砂糖を混ぜたタライに水をかけると、水が一瞬で真っ黄色になりビックリしました。

後で夫に聞くと、「たくあん漬けの素」のウコンと色粉の色だったそうです。

前もって買ってあったようで、義母がポケットから出してきたと笑っていました。

どうやら小烏が台所でゆずの皮を削いでいるときに、糠に混ぜたようでした。


 久しぶりに燃えた義母。

きっとおいしい「タクアン」ができるはず。

ただ、最後にタクアンをつけたのは10年ほど前のことだそうです。



その後

 大根は白菜より後に漬けたのですが、白菜より先に水が上がり優秀さを示しています。


またその後

 そろそろ食べごろだとのことで、出してきました。

 できた「タクアン」ですが。

 大変残念なことに、色白で甘みのない塩漬けでした。

 塩漬けとしては美味しかったです。

 ただ、「タクアン」ではなかった。

 

 義母も10年のブランクには勝てなかったのでしょうか。


追記

さらに10日後

色は白っぽいままですが、深みのある(甘味はあまりないけれど)お漬け物になっていました。

お正月にもドドーンと出せて、義母も喜んでいました。


重石を乗せて漬けている間に、一度ドス!と石が落ちたことがありました。

それは、夫が「計算して」乗せた重石だったことも、申し添えておきます。


ちなみに義母担当の重石はそんなことはありませんでした。


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