驕らなくても堕ちてゆく

 春とは、恐ろしく悲しいものである。多くの優秀な人はこれを聞いて違和感を感じるだろうが、優秀でないものにとって春とは現実を突きつけられるなんとも無常で冷たいものなのだ。


「はぁ~~。しくった~~。俺の人生は終わりです………」


 部屋で一人、何百回目かの独り言を吐き捨てる。最近は現実を見るのが嫌で、たまらなくなって、友人のインスタすらまともに見れる精神状態ではなくなってしまった。そう、俺は夢破れて進路を決めることができなかった者なのだ。


 俺がこんなになってしまったのは、全てあの試験のせいだった。英検1級の試験当日まで俺はどちらかといえば、超優秀な部類に入る人間だったのだ。しかし、そんなことも全ては過去の産物だ。あの日、現れた一人の女性が俺からすべてを奪っていったのだ。


 桐島葵。あいつは、俺を越えることを目標に順当に努力を積み重ねてついには俺を追い抜いてしまった。俺も最初はあいつに張り合い、自分の能力を最大限に発揮してなんとか再び追いつこうと頑張ったのだ。だが、あいつはそんな俺の努力を無慈悲なまでに踏みつぶし、圧倒的な成績でなぎ倒した。


 俺は、あいつに挑戦する最後の機会として英検1級の試験を選んだ。ここで負ければ俺は一生一番にはなれず、あいつには負け続ける人生になってしまう。今思えば、たった一つの試験でそこまで人生が変わるはずがないのだが、俺は自分が勝つために自己暗示をかけ続け、ついにはそれが現実のように錯覚してしまった。そして、その暗示は勝負に決着が付き、あいつが優秀者として一人、表彰状を受け取った後でも続き、本当に俺の人生を狂わせてしまった。


 恐ろしいものだ。一時のプライドと狂信で人生は簡単に壊れてしまう。今の俺には人並み以上の能力はあれど、何もする気にならないのだ。すっかり空っぽになって真っ白になった自分の心の中に、春の日差しは痛いほど差してくる。俺はまたため息をはいて、静かにベッドへ横になった。

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