海で入れ食い祭り

「海釣り、海釣り~~。今日は海釣りに行くわよ~~!」


 日も出ていない午前4時に起こされた瞬間に聞こえる亜由美の嫌に元気な声。せっかくの休日も大体この声で疲れ果てることが確定してしまう。嫌だな……。でも、嫌がったところで行くことは避けられないんだし……。俺は亜由美が誘導するままにアウトドア用の服装に着替えた後、車に乗り込んで海へと向かった。


「わぁ~~。あれだよ、あれ! 私達が行く海はめちゃくちゃ綺麗だね~~!」


 運転中にも関わらず、何度も海を指さして、はしゃぐ亜由美。俺が朝早くから運転してあげてるのに、そんなことは全く考慮に入れられていないらしい。とりあえず釣りができる場所へと移動しよう。俺は港の防波堤近くの駐車場に少し乱雑に車を止めた。


「それにしても、釣りをしようなんて言い出したの初めてだな。釣り道具はちゃんとそろえたのか?」


「うん! ばっちりだよ! ほら、ちゃんと買ってきた!」


 亜由美は細い竿2本と食パン一斤をかざすと自慢気な表情を見せつける。またこいつは……、釣りを何だと思ってるんだ……。俺は呆れながらもぐっと我慢して一緒に食パンをちぎり釣竿を暗い海へと投げ入れた。すると………、


「うわ~~い! 釣れる、釣れる! 入れ食いだ~~~!!」


 タイ、アジ、ヒラメ、ハマチ、サンマ、ウツボ、えび、カニ、アワビ………。海に竿を投げ入れるたびに海を構成するすべてのものが良いように釣れる。まあ、俺が釣らせてやっているんだが。えっと……、あとここらへんで釣れるものって何があったかな……。太平洋で釣れるもの……。俺は悩みながら全く動かない竿を握り連想ゲームを始める。するとまた一段とデカい亜由美の声が響き渡った。


「え~~~! これ、凄い!凄いよ!」


 超巨大なカツオを背負いながら亜由美は俺に興奮気味で近づいてくる。いや、そんなわけあるかい。なんで疑問に思わないんだよ。いつもながら亜由美の天然っぷりには呆れてしまう。まぁ、気づかれずに喜ばせれるのならそれはそれでいいか。次は、ピラルクかシーラカンスでも釣らせてびっくりさせてやるか。俺は朝日が昇ってきらめき出した海にひっそりと念じる。港は元気な高い声に包まれて、また巨大な魚を背負いながら亜由美は近づいてくる。そんな無邪気な姿に俺は思わず吹き出しながら魚を運ぶのを手伝いにゆっくりと近づいていった。

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