嫌がる姉妹を丼で頂くエロ漫画のクズ男に転生してしまった俺は、優しさの限りを尽くすと決める。

深谷花びら大回転

第1話 ブラック企業勤めだった名無しの権兵衛――気付けばクズ男

 所謂いわゆるブラック企業に務めている俺の心身はともにボロボロだった。週6日が出勤で、サビ残は当たり前。深刻な睡眠不足は着実に体を蝕んでいき、上司の無理難題やノルマのプレッシャーに心は疲弊しきっていた。


 しかし、世が世なだけに転職も難しく、仕事があることは幸せなんだと自分に鞭打って、俺は俺を酷使してきた。


 その跳ね返りが倦怠感となって全身を重くする。意識も朦朧もうろうとしていて定まらない足取り。仕事中じゃなくて良かったと安堵する土曜の夜11時。


 明日ゆっくり休んで、月曜に備えなきゃな……。


 仕事終わりに考えるのは週明けの仕事のこと。思考回路が社畜の鑑すぎて自嘲の息が口から漏れ出てしまう。


 駅へと向かう道中は、土曜の夜ということもあって賑わっている。すれ違う人々は皆一様に笑顔を浮かべていて楽しそう。


 邪魔してはいけない。日陰者の俺は道の端に避ける。


 友達と飲みに行ったりしたい気持ちはあるけど、もし今誘われても俺は行かないだろう……というか行けない。時間がないのもそうだが、なにより場を白けさせてしまい迷惑をかけてしまいそうだから。


 いつからか、こんなに自信が持てなくなったのは。


 閉塞感に苛まれ視界が滲む――その時だった。闇に紛れて歩く俺に突然、目に痛すぎるほどの光が当てられた。


 追従するかのように心臓に悪い音が鳴り響く。


 その音がクラクションの警告だと理解した時にはもう……遅かった。


 ――――――――――――。


 プツリとこと切れ暗転した世界が、一瞬で開ける。瞬きの刹那……いや、実際に瞬いたのかもしれない。


「え……え?」


 ついさっきまで俺は駅へと向かっていて、その道中、車に轢かれたはず……けれど今、俺がいるのは見覚えのない部屋。しかも、ベッドの上で服がはだけた女性の動画をスマホで視聴している。


 突如、場面が切り替わったとしか言いようがなく、言いようがないからこそ動揺を隠せない。


 ……ちょっと待て――これ、動画は動画でも録画中じゃないかッ?


 視野が狭くなっていたせいか周囲がまるで視えていなかった。スマホに映っているのは過去の物ではなく、現在進行形で女性を映している。


 俺は――被写体の女性にまたがって、スマホのカメラを向けていたのだ。


「う――うわぁ!」


 素っ頓狂な声を上げベッドから転がり落ちた俺は、2.3回ほど無様な後転を晒し、勢いよく壁に背をぶつける。


「痛てて……」


 打ちつけた背中をさすりつつ、俺は視線をベッドの上に戻す。


「……………………」


 むくりと上体を起こした女性は、はだけたシャツを着直し、不思議そうな表情してこっちを見つめる。


 シャツで前を隠してくれたものの、目のやり場に困る格好なのは変わらず、俺は顔を背ける。


 ――え?


 室内にもう一人、別の子がいることに気付いた。


 部屋の片隅で体育座りをしているその子は学生服を身にまとっていて、こっちに顔を向けて目をパチクリとさせている。


 姉妹だろうか、ベッドの上にいる女性と似ている。


 というより、二人の顔には見覚えがあった。


 つい最近、頻繫に目にしてきたその顔は思い出すまでもない。


 ネット広告――大人向けの漫画に登場していた姉妹だ。


 タイトルまでは思い出せないが……間違いない。あの手の広告は一度目にするとやらた見かけるようになるし、純粋に絵が可愛かったからよく覚えている。



『生活の為に好きでもない男に無理矢理犯され――』


『さらには妹も巻き込まれ姉妹丼にッ⁉』



 うたい文句も記憶にある。スマホをスクロールする指を思わず止めてしまうレベルの作品と言ったらわかりやすいか……内容は読んでないから知らないけど。


 漫画の世界に入り込んでしまったってことか? ……いや、さすがにそれは――――。


 ふと目にしたシンプルなデザインの姿見。そこには人相悪い上半身裸の男が映っていた。


 俺は二人がいることなど気にせず、ジタバタと四足歩行で姿見の前へと向かう。


「なんだ……これは……」


 姿見の両端をすがるようにして持つ手が震える。


 金髪にピアス、右腕にはぎっしりとタトゥーが刻まれていて、顔も強面。しかしながら俺の感情にしっかり連動している……動揺した表情がまさに。


 この男も知っている……ネットの広告で見た、姉妹丼を頂く側だ。


 ……いや、知っているなんてレベルじゃない――――俺は〝この男こそが俺だと認識してしまっている〟。


 戌亥いぬい舞輝まいき。歳は23で、血液型はO型。10月生まれのてんびん座。知らない人間のプロフィールを何故か知っている……当然のように。


 俺は戌亥舞輝じゃないと主張する自分と、俺は戌亥舞輝だと主張する自分が同時に存在していて、とても奇妙で気持ちが悪い……魚の小骨が喉に刺さっているような感覚だ。


 しかもだ……事故に遭う前の、俺の名前がどうしても思い出せない。それだけじゃない、これまで関わってきた人達――両親の名前すらもだ。


 学生時代の思い出も、社会人の経験も、頭の中で容易に再生できるのに、俺含めた人物名だけがどうしても出てこない。名前だけが丸ごと消されてしまっている。


 かと言って戌亥舞輝のすべてを理解してるわけでもない。年齢や生年月日等、簡易的なプロフィールのみで、普段なにをしているのか、働いているのかそうじゃないのか、ここがどこなのか、まったくわからない。


 戌亥舞輝という名前と少々のプロフィールだけでまったく知らない世界に放り出された……その上、戌亥舞輝こそが俺だと認識している自分もいる……とてもじゃないが言葉に形容できない……この感覚は。


「あ、あの……大丈夫、ですか?」


 声をかけてきたのはベッドの上にいた女性だった。胸元をシャツで隠している彼女は怯えているように見える。


 右左どころか上下前後もわからないが……彼女達なら知っている。今欲しいのは情報だ。


 ただ……その前に言っておかなければならないことがある。


「俺は大丈夫なんで……服、着てください」




――――――――――――。

どうも、深谷花びら大回転です。


ママのおっぱい舐めしゃしぇて♡

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