ラヴァンパイア・キス ~吸恋鬼と恋、はじめました!~

ほか

プロローグ

 高校一年にしてはじめて本気の夢を見つけた。

 初恋のように浮き立つこの気持ちは、光の矢の速さで宇宙までも飛んでいきそうだった。

 でもその実現の前には幾重にも大きな壁が立ちはだかっていて。例えるなら氷河期とか、隕石の衝突とか、それらはあたしにとっては地球の歴史なみに困難なものだった。


 ――と、あたかも理系女子リケジョのように地学の例えをつかって説明してみたのは、とりあえず一番手前の難関が『理系科目』。中でも苦手な理科を得意にするってことだったから。

 とくに、中学のときの理科のテストの成績は、平均点ぎりぎりか下手したら下回ることもあったくらいで。

 このままじゃいけない。

 そこであたしは、一世一代の賭けに出た。


「先輩。――お願いがあるんです」


 その相手に、彼――通っているとばり学園高校二年で、同じ天文学部の待夜冥都まちやめいと先輩を選んだのは、ふだんから話しやすくて、後輩のあたしたちにも丁寧語で話すくらい、優しかったから。

 次に、成績も抜群なんだって噂もきいたから。

 なにより、彼が部長を務める天文学部が新入生勧誘のときに行っていた催しに、かんぜんに魅せられてしまったからだった。



「天体の勉強について、あたしにいろいろレクチャーしてもらえませんか!」



 週に三回の天文部の活動が終わって、みんなが帰ったあと、残って夏休み中に行われる星空観測会の活動の計画を立てていたところ。話を切り出すタイミングにそこを選んだのは、彼が学園でも有名なモテ男子だったからっていうのが大きい。

 ファンクラブもあるくらいのその人に、たった一人で話しかけているところを誰かに見られたら、告白と誤解されたりとか、いろいろとめんどうなことになりそうだと思ったんだ。


「じつはあたし、天文部に入部しといて、理科が苦手で。でもどうしても、今年の秋の文理選択で、理系を選びたいんです!」

 文理選択というのは、高校二年から人文系の勉強をするか、理系の勉強をするか選ぶとことだ。それに沿ってクラス分けも行われる。将来就きたい職業や興味のある分野にあわせて、今のうちから考えておくように担任の先生に言われている。将来の仕事の選択に関わる重要な分岐点がやってくる、今年の秋までが勝負と、心に決めていた。

 ごくん、と唾をのんで返事を待つ。

 かるくウェーブがかったグレイの髪。伏せられた長いまつ毛。それまで机に座ってじっとルーズリーフのノートに向けられていたヴァイオレットグレイの瞳が、こっちを向いた。



「いいですよ」



 涼し気な目元と口元は、ともに微笑んでいた。

 やった……!

 顔を引き締めようとしても、ついつい、笑顔が広がる。

「ただし、条件があります」

 そう言われると、自然身体がかたくなる。

 その目に真珠のような光を宿し。口元に下弦の月のような形を描いて、彼は言った。



「オレのことを好きになってもらえませんか」



 ……。

 ぱーどぅん!?

「もし3カ月後のペルセウス座流星群の日までに、オレがあなたを射止めたら、そのときは、キスさせてほしい」


 そーりー、わんもあたいむ、ぷりーず。

 声にはさすがに出さなかったけど。

 心で思いっきりあたしはそう、叫んでいた。

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