プロローグ

 ここに、4人で撮った写真が飾ってある。

 達也は一人、戻ることのない日々を想う。

 まるで昨日の出来事のように、写真の中のアヤを追いかけている。


 アヤが今にも語りかけてきそうで、達也は瞳をこらした。

 色黒のアヤが、白い歯をこぼしながら、カメラ目線で達也を見つめている。


 船を改造した、さびれたカクテルラウンジ、サイパンレディー号でのスナップは、マッチ箱のような、小さな海が背景になっている。


 船の甲板かんぱん、デッキに配置された白いテーブルのまわりを女バーテンダーがせわしなく動く。彼女はウェイトレスも兼ねていた。


 グリーンのTシャツがUSサイズのためか少し大きく感じられるほど、アヤは幼く写っていた。髪の毛を一本に後ろでたばね、紫色のスカーフを巻いている。


 華やいだ夏を通り抜け、男の視線を十分にそそぎ込まれた女ほど、秋は一息つくのにちょうどいい。


 恋する女にとって、秋は一番素敵になれる季節かもしれない。

 男、そして女。

 深くため息をつけば、そこには1編の詩が生まれる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る