プロローグ

 男は素朴な疑問を30代になったばかりの胸に秘めていた。

 正しい心の在り方とは何か、自分自身に問うていた。


 商売繁盛、家内安全、無病息災むびょうそくさい……。

 人はついどんなことでも神に祈ってしまうものだ。


 しかし本当の信仰というものは、自分の内部を問うものであり、欲望を満たすこととは少し違っているように思えた。


 ある者は、なぜ自分だけが不幸を背負わなければいけないのか嘆き、毎日、泣いて過ごすという。


 ある者は、事実を受け入れ、悲しんでいる人は、もっと他にいる。前向きに生きるよう努力した。


 交通事故で片足を失い、自殺してしまう人は、つまり正しい心の在り方を学んでいないことになる。


 人はどこに向かって歩めばいいのだろう?

 その答えを知っている人にたずねたかった。

 私が生まれてきた意義を教えてほしかった。


 物語は自分が死んだことにして、知り合いの携帯をたずねて回ることから始まる。

 回答は、それはひどいものばかりでした。

 探偵がいうように、死んで当然ていうのは序の口で、『やった~』とか『ざま~みろ』とか歓声をあげる者までいる始末でした。


 男は自分の人生が良い人生だったのか、頭を抱えて自問した。

 『右のホホを打たれたなら、左のホホをも差し出しなさい』

 良識ある大人は言う。


 男は差し出された左のホホすら、それならばと、遠慮なくはたくタイプの男だった。


 悪いことをしたことがない人なんて、この世にいるのだろうか?

 遠くでぼんやり声が聞こえる。

 

『いるとすれば、それは、シンディ・ファッキング・レラくらいなもんだろう』

 自分をなぐさめるには言葉が足りなかったが、男は自分を信じることにした。

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