アオハルmelodyを奏でて

DITinoue(上楽竜文)

第一章

第1話 ピアノ演奏の意外

 パチパチパチパチパチパチ

たった23人が手をたたいているだけなのに、小さなホールは跳ね返し技のように

音を大きくする。そして、今から演奏するへなちょこピアノもことごとくホールの壁

に突き飛ばされるのだろう。入り口が喚起のために2㎝くらいほど開いている

体育館にも入ってゆくのだろうか。これを聴いて、僕をからかってやろうと持久走を

やめてホールに入ってきたらどうすればいいのだろう。


「やーいへたくそ」

「もうピアノやめれば」

「集中できないからピアノごと撤収して」

「君にはがっかりしたよ」

ぐちぐちぐちぐち、延々とつづられる悪口を想像すると、耳たぶから徐々に

熱が上がってゆく。


「西堀君、早く弾きなさい」

顔に似合わないでっかい丸メガネをつけた音楽教師にせかされ、渋々と鍵盤に手を

やる。


「行きます」

どうせ冷やかされるのだったら、もう堂々と行ってやる!

タラララータララタララタラララタターン♬タラララランタタタンタタタタター♪

伴奏が始まると先程までザワザワガヤガヤしていたクラスメイトの雑談はピシャリと

止んでしまった。よっぽどおかしいのだろう。笑えばいいさ。どうとでも言え!


タララララーン・・・タタタタラタラッタタタタラタララー♫ダーンダーン!!

「ふぅっ・・・」

シーン

しばらく一同は黙っていたが、その沈黙を破って大平祐聖おおひらゆうせいが小さくだが手をたたいた。続いて、梅田麻寿美うめだあすみ梶木学かじきがくが手を打った。それがガスのように広がり、全員が拍手し始めた。気づけば、持久走を終えて引き揚げてきたと見える6年の連中までもぱちぱちと音を鳴らし、拍手の波動が押し寄せて来ていた。


「????????」

「みなさん、西堀君の演奏を聴きましたね?あれを見習ってみなさんも弾きなさい」

音楽教師――小柳絵里香が予想外の一言を言い放った。

次の梅田の演奏が始まる。終わってから、「2点」という評価を小柳先生は出した。


 あの出来事から、1週間後、またピアノ発表会が音楽室であった。その時も、

小柳先生は「100点満点」と言う。つい最近まで心のもやがあったはずなのに、

今回の評価、そしてその次の日の「120点満点」でもやはオーロラへと変わった。


新聞記者までやってきて、3学期最後の月は華々しく終わった。

春休みに記事を見せてもらうと、「ベートーベンの化身?!天才ピアニストが

三國小に降臨」というホップ体の見出しが真っ先に目に入った。

「天才ピアニストって・・・・・」

せっかくのオーロラがただの曇り空になるのを必死に抑えたときであった。


 4月2日(土)良平の予定・・・ミュージックオフィス♬ピッコロの入所手続き

は?!なんだって?!どういうことだよ。


6年生になり、ギターの腕をあげることを目標にしていた。「ピアニスト」と新聞に

載せられて以来、なぜか霧雲が心にまとわりついていた。だからピアノではなく、

元々の趣味であるギターに専念しようと思ったのだ。

その矢先、突如現れた、カレンダーの文字。母さんが書いたのだろう。クシャクシャした文字を見ると、すぐに分かる。


「ミュージックオフィス」とは、その名の通り、音楽事務所だ。歌、

楽器演奏、作詞、作曲・・・様々な音楽関連の職業の人が集う大手芸能事務所。

その中で、「シンガー」、「ピッコロ」、「ソング」、「メロディー」、

「ライフ」の5つに分かれている。それぞれ「歌」、「楽器演奏」、「作詞」、

「作曲」、「その他自由」だ。


で、なぜ僕の予定の欄に「ミュージックオフィス♬ピッコロの入所手続き」と

書いてある?!まさか、本当に僕が入所するんじゃないだろうな・・・。

心の中では、胸騒ぎがしている。取材しに来た新聞記者は複数人いて、どれも大手の

ものばかりだった。ギターで入れるならいいけど、どうもそうじゃない気がする。

いや、そうじゃない気しかしない。

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