第121話 制御していてこれとは

 武器と融合した男たちが、実験室のあちこちに倒れ込んでいた。


 エデルが攻勢へ転じてから、彼らが倒されるまで三十秒もかかっていない。

 強力な武器の力を借りていても、エデルは歯牙にもかけなかった。


 戦いの様子を見ていた研究者らしき連中が、異次元の少年に恐怖し、隅っこでガクガクと震えている。

 中には泣いている者や失禁してしまった者までいた。


 そんな周囲を余所に、気絶した一人の武器に軽く触ってみて、エデルは頷く。


「これって外すことはできないのかな? うーん、なるほど。無理やり取っちゃうと、この人が死んじゃいそうだね」


 思っていた以上に武器が身体の奥底にまで入り込んでいて、もはや臓器の一部のようになっていたのだ。

 いったん融合してしまうと、基本的には取り外すことができないらしい。


「まぁ強引にやれなくもなさそうだけどね」


 とりあえず今は、ここまで乗り込んできた目的であるセネーレ王子だ。

 戦いの途中、彼はこの実験室のさらに奥にある扉の向こうへと逃げ込んでいた。


「開けるよ」


 ばごんっ!


 その扉をこじ開けると、その先にセネーレ王子と小柄な老人の姿があった。


「オーエン、やれ!」

「では行きますぞ!」

「っ! ああああああああああああああああああっ!?」


 セネーレ王子の絶叫が轟く。

 彼の右腕と一本の剣が、今まさに融合しようとしているところだった。


 その剣が保有する魔力は、先ほどまでの武器とは段違いである。

 直後、落雷のような音が響き渡った。


 バリバリバリバリバリバリバリッ!


「がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 刀身から生み出された雷が、セネーレ王子の身体を焼いたのだ。


「ひぃっ!? な、何という力じゃ!? 制御していてこれとはっ! こ、これでは下手をすると融合する前に殿下の身体がっ……」


 やがて雷鳴は収まったものの、そこには全身が黒く焦げ、言葉通り燃え尽きたように立ち尽くすセネーレ王子の姿があった。


「で、殿下……」


 老人が恐る恐る近づくと、


「……くくく」


 突然、セネーレ王子が笑い出した。


「くははははははははははっ! 素晴らしい! なんという力だ! 身体中から凄まじい力が湧き上がってくる!」


 再び雷鳴が轟き、その腕と一体化した刀身が電流を帯びていく。

 どうやら融合に成功したらしい。


「ちと焦りましたが、上手くいったようでございますぎゃっ!?」


 安堵の息を吐く老人だったが、バチンッ、という音と共にひっくり返る。


「あまり私に近づかない方がいい。今の私は雷そのものと言っても過言ではない状態だからな」

「は、はひぃっ」


 慌てて距離を取る老人を余所に、セネーレ王子の視線がエデルの方へと向けられた。


「逆に貴様には感謝しよう。私に決断させてくれたのだからね。お陰でこの最強の力を手に入れることができたよ。今ならきっと何でもできる。この国を支配することも、滅ぼすことも、そして、貴様を殺すことも」


 大きな力を手に入れたためか、それともあの剣との融合で精神にまで影響が出たためか、自信に満ち溢れている。

 一方エデルは相変わらず涼しい顔だ。


「なるほど、確かにそれ、さっきまでの武器とは段違いの性能だね」

「くくくっ、その落ち着き払った顔、すぐに絶望で歪めさせてやろう……っ!」


 セネーレ王子がそう宣言した次の瞬間、部屋中に小さな雷の嵐が吹き荒れた。

 それは実験室の方にまで及んだようで、


「ぎゃあああっ!? 殿下っ! 儂らが逃げるまで待ってくだされぇぇぇっ!」


 研究員たちが悲鳴を上げ、慌てて逃げていく。

 しかしそんな彼らのことなどお構いなしに、セネーレ王子は凝縮した強烈な雷の塊を撃ち放った。


「おっと」


 ドオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!


 エデルがそれを回避すると、雷撃は後方の実験室の壁に激突。

 凄まじい爆音と共に、その高熱で壁が抉り溶けて大きな穴が空いてしまった。

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