第120話 使い手のレベルが低すぎるんだ

 夜中に襲撃してきた暗殺者を利用し、黒幕とコンタクトを取ったエデル。

 すぐに行くからと宣言した通り、その直後にはすでに王都中枢にあるイブライア家の屋敷へとやってきていた。


「どうやら地下に潜っちゃったみたいだね。逃げても無駄って言ったのに」


 セネーレ王子の居場所を、彼は完璧に把握している。

 暗殺者ディルの影魔法に干渉することで、こっそり目印マーキングしておいたのだ。


 屋敷には警備の兵たちが多数いたが、エデルが軽く隠密魔法を使うと、誰もその姿に気づくことはできず、堂々と彼らの目の前を突っ切っていくことができた。


 地下への入り口を見つけ出すのも簡単だった。

 隠されていても、セネーレ王子の動きを追っていたら丸分かりである。


「鍵がかかってるけど、解除魔法を使えば……開いた」


 あっさり鍵を開けると、地下への階段を発見。

 下りていくと、その先は簡単な迷路のようになっていたが、この何十倍も複雑な魔界のダンジョンを幾つも踏破しているエデルが迷うはずもない。


 仕掛けてあるトラップも、一目見ただけで分かってしまうものばかりで、一応幾つかワザと引っかかってみたりはしたが、エデルとっては非常に物足りなかった。


 やがて施錠された扉を見つけたエデルは、


「鍵を開けるまでもないかも」


 蹴りで扉を強引に吹き飛ばした。


 ドオオオオオオオオオオオオオンッ!!


 目印はそのすぐ先の部屋の中である。


「こんなところに隠れてたんだ。逃げても無駄だって言ったでしょ?」

「本当に来たああああああああああああああああああああっ!?」


 エデルの姿を見て、絶叫している人物がセネーレ王子だろう。

 すぐ近くには随分と背の低い老人がいる。


 その老人がセネーレの命を受けて、ベッドのようなものの上に寝ていた人間たちを起こしていった。

 よく見ると、彼らの身体には剣や槍などの武器が埋め込まれていて、


「もしかして武器が身体と融合してる? へえ、そういうの人間界にもあるんだね」


 身体に魔剣や魔道具を融合させた魔族を、魔界で見たことがあったのだ。


「お前たち! あのガキを排除するのじゃ!」

「「「了解」」」


 老人の指示に彼らが頷くと、目覚めたように武器から魔力が噴き出す。


 まずは剣と融合した男が躍りかかってきた。

 刀身が炎を帯び、猛烈な火柱を発生させながら、エデル目がけて斬撃を放ってくる。


「っと」


 エデルはその斬撃を回避するも、凄まじい熱風に晒されてしまう。


「ちょっと熱いね。まぁイフリートの超熱咆哮と比べたら全然だけど」


 とそこへ、槍との融合者が迫ってきた。

 こちらは槍に渦巻く風を纏わせ、強烈な刺突を繰り出してくる。


 さらに反対側からエデルを挟み込むように攻撃してきたのは、鞭との融合者だ。

 鞭の先端が当たった机が一瞬にして腐っていくところをみるに、触れたものを腐食させてしまうらしい。


 最後の一人は、銃との融合者だった。

 撃ち出されるのは氷の弾丸で、鋭く尖ったそれが高速回転しながら飛来する。


 魔導兵器との融合者五人による同時攻撃。

 それが嵐のようにエデルに襲いかかった。


 それなりの広さがあった実験室だが、激しい戦場となったことで、あっという間に破壊されていく。


「って、何じゃあのガキは!? 融合者五人がかりの猛攻を凌いでおるじゃと!?」


 老人が目を剥いて叫ぶ。


 一方で、エデルはそれらの攻撃を物ともせず、すべて完璧に捌き続けていたのである。

 身体には傷一つない。


「なるほど、その武器、単に魔法攻撃ができるだけじゃなくて、持ち主の力も引き出してるんだね。でも、残念ながら元が大したことないと、たかが知れてるよ。正直、武器の性能を半分も引き出せてない。武器に対して、使い手のレベルが低すぎるんだ」


 五人がかりの攻撃を避けつつ、涼しい顔で分析を口にするエデル。


「なんか期待外れだったね。とっとと終わらせよっか」


 そうして攻撃に転じるのだった。


--------------

『生まれた直後に捨てられたけど、前世が大賢者だったので余裕で生きてます』の漫画版3巻、本日発売です!!

https://www.earthstar.jp/comic/d_comic/9784803017816.html

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る