第89話 消しちゃった方が早いかな

 頭上にあった結界から、シリウスの撃った雷撃が降ってくる。


「っ?」


 エデルは頭からそれを浴びてしまう。


「ひゃははっ、出たぜっ! シリウスさんの秘儀っ!」

「幾らあいつでも、これは躱せなかったみたいね……っ!」


 シリウスの展開する幾つもの結界。

 それらを簡易な時空魔法によって結びつけ、今のように魔法などをワープさせることを可能としたのだ。


 この結界の使い方は過去にないもので、それもそのはず、彼自身が開発したものだった。

 魔法学会でも高く評価され、それによって彼はこの若さで〝魔導師〟の称号を与えられている。


 しかしネロとミラーヌが喝采を挙げる一方で、当のシリウスの表情は険しかった。


「……効いていない、だと」


 全力に近い出力で放った雷撃だったが、その直撃を受けたはずのエデルは何事もなかったかのように平然としていたのだ。


「へえ、結界から結界に魔法をワープさせるなんて。なかなか面白い使い方するね」


 それどころか、興味深そうに「ふむふむ」と頷いている。


 時空魔法の一つに、物体などを転移させる魔法があるのだが、その入り口と出口を結界により指定しているのだろうと推測するエデル。

 そうすることで、簡易な時空魔法での物体転移を可能にしているようだった。


「でも、このやり方じゃ、あまり長距離の移動はできなさそうかな。せいぜい数メートル程度ってところか」

「あまりこの私を、舐めるな……っ!」


 ブツブツとエデルが魔法の仕組みを分析するその隙に、シリウスはすぐさま次の攻撃へと移っていた。


「サンダーストームっ!」


 渦巻く雷が結界に吸い込まれていく。

 と同時に、エデルの周囲に展開されていた複数の結界が、ぎゅっと彼の元へと接近していった。


「こうすることで、大規模破壊魔法であるサンダーストームの威力を、一か所に集中させることができるのだ! 生身の人間など一溜りもないはず……っ!」


 バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリッ!!


 凄まじい爆音が轟き、シリウスの声が掻き消される。


 エデル近くの結界へとワープした雷撃。

 本来なら周囲に漏れてしまうはずの電流も、他の結界に反射して再び結界の輪の中へと戻ってくる。


 シリウスが言う通り、サンダーストームの破壊力が余すところなく一点に集まり、途轍もない威力にまで昇華されていた。


「なんつぅ威力だ……っ!? これがシリウスさんの本気っ! やっぱ第二席はヤベェぜ……っ!」

「あ、あははははっ! あの一年もこれで丸焦げでしょ!」


 目が眩むほどの光が瞬き、やがてゆっくりとそれが収まってきた頃。

 笑い声を響かせていた彼らは、またしても絶望的な光景を目にすることになった。


「今のも面白い使い方だね。ただ、あんまり意味はないかな? だって結界なんて使わなくても、魔法そのものを凝縮すれば同じなんだから」


 またしてもエデルが涼しい顔をしてその場に立っていたのである。


 丸焦げどころか、火傷すらしていない。

 制服も綺麗なままだ。


 目を剥きながらシリウスが怒鳴る。


「い、一体どうやって防いだ!? 今のタイミングで躱すことは絶対に不可能! 当然、無傷などあり得ないはずだ!」

「そう? このくらいなら闘気で身を護れば、見ての通り無傷で済むけど」


 バハムートのブレスと比べると、なんてことのない攻撃だった。


「……さて。アリスには止められてるけど、さすがに今回はやっちゃってもいいよね? できるみたいだし、このまま逃がすと色々と面倒そうだから」

「……っ!」

「ていうか、消しちゃった方が早いかな? さっき言ってたもんね? ダンジョンの探索中に死んだとなれば、死体を発見できなくても不自然ではない、って」

「~~~~~~っ! き、貴様っ……この私を誰だと思っている!? 四大公爵家であるシルベスト家の人間だぞ!? もし私を殺したら王国中の貴族を敵に回すことになるぞ!?」


 青い顔で訴えるシリウスに、エデルはキョトンとしながら言った。


「あれ? こうも言ってたよね? 手を下した証拠も残らない、ってさ」


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