第67話 何でここに階段があるのよ

「この先だよ」

「こ、この先って……え、どういうこと?」


 エデルの部屋の隅。

 本来であればただの壁であるはずのその場所に、謎のドアが付いていた。


「こんなところにドアなんてないわよね?」


 まじまじとそのドアを見るアリス。

 この学生寮の各部屋はすべて同じ間取りをしており、エデルの部屋だけ余分な部屋があるはずがなかった。


 そもそもこの壁の向こう側は外だ。

 部屋は二階だし、仮にこんな場所にドアがあっても、二階から落下してしまうだけだろう。


 だがエデルがそのドアを開けると、そこは外ではなく、下へと続く階段だった。


「な、何でここに階段があるのよ!? どう考えてもそんなスペースないでしょ!?」


 驚くアリスを余所に、エデルはずんずんその階段を下りていった。

 アリスとガイザーが慌ててその後を追う。


 階段を下りた先にあったのは、かなり広い部屋だった。

 学生寮の狭い部屋が幾つも収まるだろう。


「何よ、これは……? ここ一階のはずでしょ……?」


 ベッドやソファ、テーブルが置かれ、調理スペースまでもが存在している。

 そして場違いなことに、部屋の一画には檻のようなものがある。


「あああ……あのときの恐怖が……」


 初見のアリスが唖然とする一方で、ガイザーはガクブルと身体を震わせていた。

 以前この場所で〝調教〟を受けたときのことを思い出したのだろう。


「ここは亜空間だよ。部屋が狭くてセキュリティも酷かったから作ったんだ」

「作った……?」


 ちなみにこの亜空間は、人が入っても大丈夫なように作成した特別なものだ。

 基本的にはエデルの部屋からしか出入りができないが、今のように誰かを招き入れることもできる。


 この手の亜空間は、より高度な時空魔法が必要となり、しかも広く作るのは難しい。

 一方、ただひたすら広いだけの亜空間もある。


 ただし、その中は音も光も存在せず、前後左右の感覚が崩壊する世界で、普通の人間が立ち入ると精神が破壊されかねない。

 そのためアイテムボックスのように利用するのがセオリーだった。


「でも、こんなところで訓練……?」

「あ、ここは生活スペースだから。訓練場はこっちだよ」

「訓練場……?」


 壁に設けられたドアの一つを開けるエデル。

 するとその先には、さらに広大な部屋が存在していた。


「こんな場所まで!?」


 何も置かれていない、ただただ広いだけの空間。

 英雄学校の訓練場にも匹敵するだろう。


「実戦訓練はここで行うんだ。すでに準備は終わってるから、いつでもスタートできるよ」

「ぐ、具体的には何をするんすか……?」


 ガイザーが恐る恐る問う。


「じゃあ早速、始めちゃおっか」


 そう言ってエデルが近づいていったのは、部屋の中心の床に描かれた魔法陣だった。

 どうやら彼があらかじめ用意しておいたらしい。


 そこにエデルが膨大な魔力を注ぎ始める。

 すると魔法陣が不気味に輝き出し、禍々しい靄のようなものが噴き上がってきた。


 その靄が、次々と形を持ち始めて、


「「「グルアアアアアアアアアアアアアアッ!!」」」


 やがて現れたのは、巨大な獅子や猿、蛇、鳥、狼などだった。


「「魔物!?」」


 アリスとガイザーが思わず叫ぶ。


「そうだよ。この魔法陣は魔物を生み出すためのものなんだ」

「魔物を生み出す!?」

「そ、そんなことが可能なんすかっ!?」


 二人が驚く一方で、エデルは首を傾げた。


「あれ? 魔物を発生させる魔法なんて、そんなに珍しいものじゃないよね?」

「「いやいやいや!」」


 ぶんぶんと首を左右に振って、アリスとガイザーは即座に否定する。


「そうなんだ」


 魔界の魔族たちの多くは、配下となる魔物を自ら生み出していた。

 中には大軍を率いるような魔族もいたほどである。


「ともかく、出てくる魔物を頑張って全滅させてね。二人で協力していいからさ」


 どうやらそれこそが、二人に与えられた実戦訓練の課題らしかった。


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