第63話 蹴っただけだよ

 エデルが蹴った部分がべこりと凹み、機竜の巨体が宙を舞った。


「~~~~~~~~~~~~~~~~っ!?」


 二、三メートルほど飛んで、それから地面にガシャンと落下する。


「おお、凄い。確かに装甲は結構強いかも? でも、どう考えても無効化は言い過ぎだよね」


 蹴りの一撃で、装甲が大きく凹んでしまったのだ。

 突き破ろうと思えば突き破れるだろう。


「ば、馬鹿な……っ? 内部にまで、これほどの衝撃を与えるとは……っ!? 一体、何をした……っ!?」


 中にいたハイゼンにまで衝撃が伝わったようで、苦悶の声が響いてくる。


「蹴っただけだよ?」

「それだけでこの巨体が跳ね飛ぶかぁぁぁっ!?」


 そのとき機竜が普通のドラゴンには不可能な動きで高速回転し、その鞭のような尾がエデルを打った。

 咄嗟に腕でガードしたものの、数メートルほど吹き飛ばされてしまう。


「っと。そんな動きもできるんだね」

「機竜の尾で打たれて、その程度のダメージなのか……っ!? 城門を一撃で砕くほどの威力があるのだぞっ!? くっ……ならば、奥の手だっ!」


 驚愕しつつも、ハイゼンが新たな命令を機竜に下す。

 直後、機竜が大きく口を開けたかと思うと、


 ドオオオオオオオオオオオオオオンッ!!


 轟音と共に放たれたのは巨大な弾丸だ。

 猛スピードで迫ったそれを、咄嗟に回避しようとしたエデルだったが、信じられないことにその瞬間、砲弾が軌道を変えた。


「付いてくる?」

「自動追尾機能付きの長距離砲弾ミサイルだ……っ! 装填に膨大な費用が掛かるため、できれば使いたくなかったが、直撃すれば城を丸ごと木っ端微塵に吹き飛ばすほどの破壊力を持つ……っ! 肉片すら残さず爆散するがいいっ!」


 どこまで逃げても追い続けてくる砲弾。

 右に左にと動いてみても、しっかり後を付いてきた。


「ほんとだ、ずっと追ってくるね」


 高速で飛来するそれを背に疾走しながら、暢気に言うエデル。


「頑張って撒くか、結界で防ぐか、それとも魔法をぶつけたりして破壊するか」


 追尾型の魔法を喰らった経験は何度もあるので、対処は難しくない。

 じいちゃんと一緒に魔界の〝城〟を攻めたときには、追尾魔法が豪雨のごとく降ってきたときもあったくらいだ。


「せっかくだし、アレをやってみようかな」







 一方、いつまで経っても着弾する様子がないため、ハイゼンは焦り出していた。

 本当ならとっくに爆発していてもおかしくないはずである。


「いつまで逃げているのだ……っ!? そもそも人間が走って逃げられるような速度ではないのだぞっ!? ば、化け物め……っ! ……ん?」


 そのとき木々の向こうからこちらに向かってくる影が見えた。

 まさか、と背筋がヒヤリとする。


「い、いや、そんなはずがない……あれから逃げ続けながら進路を変え、こちらに向かってくるなど……」


 恐る恐る望遠の倍率を上げると、その影の正体がはっきりと見えてくる。

 エデルだ。


「こ、こ、こ、こっちに向かって来てるううううううううううっ!?」


 当然ながら城を吹き飛ばす威力の砲弾も、一緒にこちらへ向かって来ている。


「直前で軌道を変え、ぶつける魂胆かっ!? だが、その手には乗らんっ!」


 機竜が翼を大きく広げ、空へと飛翔した。


「くはははははっ! どうだ! さすがのお前も、空までは付いて来れぬだろう……っ!」


 と勝ち誇っていると、エデルが地面を蹴って跳躍。

 そのまま宙を舞って、一直線に迫ってきた。


「飛んでるううううううううっ!?」


 もちろん砲弾をお供にしている。


「く、来るなあああああっ!」


 前後の脚を我武者羅に振るい、大量の風の刃を射出するハイゼン。

 それに対して、エデルはどこからともなく剣を取り出すと、


「よっと」


 大上段から一閃。

 それだけで機竜が放った刃を、あっさり四散させてしまった。


「~~~~~~っ!?」

「天駆」


 さらに次の瞬間、エデルが加速した。

 空の上だというのにまるで地面を蹴ったような勢いで飛び、機竜内から確認できる視界から完全に消えてしまう。


「ど、どこに……っ!?」


 直後、がんっ、と後ろの方から何かが飛び乗ったような音と振動が響いて、ハイゼンは戦慄する。

 砲弾がそのまま真っ直ぐ彼の元へと迫ってくるのは、〝的〟が機竜の背中に張り付いてしまったからだろう。


「ぎゃああああああああああああああっ!?」


 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!!

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