先走る義妹



 俺が家にいると、ほどなくして義妹の夕月ゆづきが帰ってきた。


「ゆ……」

「いいですよっ」

「はぁ……?」


 帰って来るなり、カノジョが食い気味に言う。

 かぁ……と夕月が顔を赤くしながら「先走りました……」とつぶやく。


 なんなんだ……?


「おかえり」

「た、ただいまかえりました……亮太君。すぐ……ご飯の用意しますね」


 夕月はまるで逃げるようにキッチンへ向かう。^

 さっきのことか。

 なんだったんだ、いいですよって……。


 夕月はだんだんだん! と包丁で食材を刻んでいる。

 彼女からは謎の話しかけてくんなオーラがでていた。こわ……。


「なんて先走ったことをっ。ああっ」


 そこへ……。

 ぴこんっ♪


「ライン? 誰からだ……?」


 通知の宛先を見る。


【豚】


「みしろか」


 どうやらラインは、名前の設定をいじることで、相手にどう表示されるかを決められるらしい。

 つまりこの豚表記は、みしろが自分で設定したものだ。


「豚……って」


『ゆづきちゃんからお話ありましたか?』

『はぁ? なんの?』


 しばらく返事がこなかったが、こんなのがくる。


『ゆづきちゃんと、さっきあったんです。で、デートのことちょっと言っときました』

『豚ぁ……!』

『ぶひぃい!』


 ……あの豚なに余計なことを……。

 って、まさか。


『夕月が、いいですよって帰ってくるなり言ってきたんだが』

『たぶん、デートのことでしょう。楽しみすぎて、気持ちが先走って、OKっていったんだと思います』


 なるほど……そういうことだったのか……。


『それとなく、亮太君から誘ってあげてください。さっきのは、聞かなかったことにして』

『だな』


 うん、さっきのはなかった。

 しかし気持ちが先走る……か。


 夕月って結構おっちょこちょいなのか?


『ありがとな豚』

『ありがとうじゃないですよ?』

『くたばれ、雌豚』

『あざっす!』


 ……まああの豚は気持ち悪いが、夕月との中継役になってくれてるので、うん、役に立つ豚だな。


「夕月」

「ひゃい!」


 これはさっきのことを聞かなかったことにして、さっさと言ってしまおう。


「今度おまえ誕生日だろ? 一緒に……出かけない?」


 きっちんから夕月がこっちを見やる。

 ……返事はまあ、言わずともいいだろう。


 そのうれしそうな笑顔を見ればな。


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