80話 ヤンデレな義妹



 解放されたのは明け方だった。


 朝に帰ってくると、玄関先で親父がラジオ体操していた。


「おー、亮太。なんだなんだ、朝帰りかい? ん?」


「いやまあ……」


 セクモンみしろに貪られており、それに付き合っていたのだ。


「青春だねえ。いや、性の春と書いて性春か! なーんちって……!」


 親父はすんげえ元気そうだった。

 そりゃそうか。時差ぼけで随分と長く眠っていたもんな。


「今日も、親父頼むな」


「おうよ。あいりちゃんの面倒だろう。任せとけって」


 体操を辞めた親父が俺の首に腕を回してくる。


「で? 今日はどの子とデートなんだ?」


「今日はって……」


「昨日は四葉ちゃん。深夜はあの元カノの子。ときたら……夕月ゆづきちゃんか」


「いや、まあ……」


 親父は俺の事情を全部知っている。

 その上で特に何も言ってこない。異常だとか、避難してこない。


「そか。ま、夕月ゆづきちゃんを泣かせるんじゃあないよ」


 ひらひらと手を振りながら、親父は外に出て行く。


「どこいくんだよ」

「ランニング。日課なんだよね」


 親父は40近くだが非常に若々しい見た目をしている。


 獣医としてバリバリ働けてるのは、体力を維持する努力をしてるからだろうか。


「おまえもランニングくらいはしたほうがいいぜ。いちおうスポーツマンなんだしよ」


「いちおうって……」


 いや、でも最近はバスケやってないからな……。


 てゆーか、二学期からほとんどバスケしてない気がする……。


「おまえ、才能あるんだからさ。バスケ続けなよ。ま、無理強いはしないけどね」


 親父はそう言って走り去っていった。

 バスケの才能……か。そんなもん、俺にはあるだろうか。


 わからないことは考えないことにして、俺は中に入る。


「亮太くん♡」

「うぉお! ゆ、夕月ゆづき……さん……」


 リビングでは夕月ゆづきが朝ご飯の用意をしていた。


「どこ、いってたのかな? かな?」


 右手に包丁を持って、笑顔で俺に尋ねてくる。


 目が笑ってないよぉ……。


「み、みしろが……呼び出してきて……」


 しゅ……!

 かつーん!


「うひぃいい……!」


 俺の足下に包丁が突き刺さっている。


「こ、ころ、ころさないで……」

「あら? 別に亮太くんを殺すつもりなんてありませんよぉ♡ ほら……虫……」


「え? 虫……」


 包丁をよく見ると、蜂が真っ二つになっていた。


「うふふ……♡ 亮太くんに近寄ってくる悪い虫は、わたしが排除してあげるからね……♡」


 ハイライトの消えた目で夕月ゆづきが微笑む。


 や、やっぱりおこってらっしゃる……。


「ご、ごめんって……だから殺さないであげて」


「あら? 別にわたしは四葉ちゃんも先生もくそビッチも、別に殺すなんて一言もいってませんよやだなー♡」


 みしろがくそビッチって言ってるあたり、キレてらっしゃる夕月ゆづきさん……。


「今日はデートだね♡」

「あ、ああ……」


「楽しいデートにしようね、亮太くん♡」

「はいっす」


 夕月ゆづきを怒らせてはいけないと、改めて思ったのだった。


 どうなる文化祭二日目。

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