76話 四葉と学際デート終



 ストラックアウトで騒動を起こした後、俺たちは屋上にいた。

 たそがれ時、四葉と一緒に校庭を見つめている。


「学祭はっや。もう1日目おわってらな」

「そうだな」


「4話もかけてお送りした四葉デート編もこれにて終了かぁ~。名残惜しいぜい」

「4話ってなんだよ」


 眼下では客たちや生徒たちが、三々五々散っていく。

 どこか寂寥感を覚える。まだ祭りは一日あるというのに。


「つーか、やっぱぼろ出しちゃったなぁ」

「ぼろ?」


「ぼろん」

「ズボンを引っ張るな!」


「りょーちんちんもここ数話、使われてなくって爆発寸前かと思ってて」

「俺の下半身はそんな節操なしじゃねえ」


「…………」

「無言辞めて!」


 四葉が俺から手を放して校庭を見つめる。

 ウィッグをつかい、長い髪になっている四葉は、夕日に照らされて別人のように見えた。


「あたしもけっこー頑張ったんだけどね。結局ぼろだしちゃったよ。女出すのってきっついわ」


 ああ、そうか。

 俺をどきどきさせようと、こいつはおしとやかなふりをしていたんだっけ。


「ドキドキしてたよ」

「え?」


 四葉が俺を見て、目を丸くする。


「ほんとに?」

「ああ。今日は……かわいかったよ」


 素直にそう思った。

 おしとやかにしてる四葉が、可愛かった。


「……今日は、ってなんだし。四葉ちゃんはいつだって可愛いし」


 彼女がはにかみながら言う。


「ね? もっかい言ってよ」


 うるんだ目を、彼女が俺に向けてくる。


「なにを?」

「可愛いって」


 頬を赤くしてもじもじとしている四葉。

 それがまた可愛らしくて、俺は言う。


「可愛い」

「もっかい」


「可愛い可愛い」


 四葉は目を閉じて、ふるふると体を震わせる。

 がばっ! と俺に抱き着いてきて、そのまま押し倒してきた。


「えへへ♡ うれしくて、死んじゃいそ♡」


 四葉が本当にうれしそうに笑うと、俺に馬乗りになったまま、唇を近づけてくる。


 ちゅっ、と唇が重ねる。


「好き♡」


 ちゅっ。


「大好き♡」


 ちゅっ、ちゅっ。


「りょーちん大好き♡」


 何度も俺にキスをしてくる。

 小鳥が果実をついばむように、何度も何度も。

 そしてその都度俺に好きだと伝えてくる。


「あたし、好きだよ、りょーちんのこと」


 めちゃくちゃストレートに四葉が思いを伝えてくる。

 いつもは下ネタでごまかしてくる彼女が、である。


 なにか心境の変化でもあったのだろうか。


「りょーちんがアタシを変えたんだよ?」

「そうなのか?」


「うん。りょーちんのてぃんてぃんによってな」


 すべてを台無しにする下ネタを言った後、彼女がまたキスをする。


「アタシが女になれたのは、あんたのおかげだよ。あんたが好きだ、りょーちん。アタシのもんになってほしい」


 四葉は笑顔で、俺にしなだれかかってくる。

 俺の隣に寝転んで、ぎゅっと抱きしめてくる。


 甘い匂いと、柔らかくも張りのある体に、俺はドキドキする。


「えへー♡ どや、おっさんJKでも、どきどきするっしょ?」


 四葉がか甘えるように抱き着きながら、からかうように言う。


「そりゃ、中身がおっさんでも、外は美少女だからな」

「お、さすがヤリちんこさん。相手が女ならだれでもてぃんてぃんかちかちにすんのな」


「ヤリちんこさんって、もはや原型とどめてなくね?」

「ナハハ、まあヤリチンなのは事実だからよいではないかー」

「意味不明だったく」


 俺と四葉はしばらく一緒にあおむけになっていた。

 ゆっくりと流れる時間と、そして夕暮れの空を、俺たちはただ見つめていた。


 ……そしてどちらからともなく、唇を、そして体を重ねる。

 こうして四葉との学際デートは、終わったのだった。

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