75話 四葉と学祭デート3



 四葉と文化祭デートをしている。


 タピオカ屋を出た後、俺たちはぶらぶらと校内を見ていく。


「なんか喫茶店多いな」

「一番楽ですからね。冷凍食品を適当に解凍して、百均のジュースを適当にコップに注いで提出すればいいんですから」


 おいやめろ。確かにそうだけども。


「うちくらいですよ、ちゃんと料理してるの」

「だよなぁ」


 とはいえ毎回喫茶店によっていてもつまらんので、校内を練り歩く。

 四葉はずっとおしとやかモードを保っている。


 でもなんというか、めちゃくちゃ違和感があった。

 こいつはもっと、こう、がははと笑う感じが一番しっくりくるんだよな。


「外見てみるか」


 校内をある程度歩いた後、俺たちは校庭へと出ていく。


 仮設テントが達ならんでいる。

 ステージでは軽音楽部がアニソンの演奏をしていた。


「これ何の曲でしたっけ?」

「デジマスじゃね?」


「あ、なるほど。道理で聞いたと思いました」


 デジマスは日本で一番愛されているラノベ作品だ。

 アニメも劇場版アニメもめちゃくちゃ流行っている。


「デジマスっていえば、同じ作者のカミマツの作品がアニメになるらしいな」

「へー、あのひとすごいんですね」


 あのひと?

 なんか知り合いみたいないいぶりだった。


「あ! 亮太君! あそこで野球部の出し物ありますよー♡」


 校庭の隅っこにはストラックアウトのパネルが置いてあった。


「落とした枚数に応じて景品がもらえるみたいだな」


 暇だったのでちょっとやってみることにした。


「亮太くーん、がんばってー♡」


 ……誰だ、おまえ。

 四葉の応援むなしく、俺は一枚も落とすことが出来なかった。


「あら残念♡」

「今度おまえやってみろよ」


「え?」


 四葉が目を丸くする。


「おまえ運動得意だろ?」

「で、でも今は、その……おしとやかモードだから……」


 なるほど、激しく動くようなことを控えているわけか。

 俺を気にして。


「いいって、それ」

「いい、とは?」


「だから、無理におしとやかさを演じなくていいって。俺は、おまえの……その、いつものおっさんみたいな四葉が……」


 言葉に詰まる。

 だが思い出したのは、諏訪先生の言葉だ。


 あの人は四葉もまた女の子だと言っていた。

 そして俺を、待っていると。

 女の子として自分を見てくれるのを。

 


「いつものおまえが好きだよ」


 こいつと一緒にいると心が安らぐ。 

 気取らなくていいし。

 一緒にいて楽しい。


 そんな彼女と過ごす時間のほうが、俺は好きだ。


「……ったくさぁ、そういうの、やめてよなぁ」


 がしがし、と四葉が頭をかく。


「アタシがせーっかく、女子女子してやってるのにさぁ」

「すまん……」

「ま、いいけどね。りょーちんがそれを望むんだったら。それに……」


 にっ、と四葉が笑う。


「いつものアタシが好きって言ってくれたの、うれしかったし」


 四葉は野球部に金を払って、ボールを受け取る。


「見てろよりょーちん! ふるぱわーのアタシの一球を!」


 大きく振りかぶって、四葉がボールを、パネルめがけて投げる。


「かっとべ、マグナムトルネードおおおおおおお!」


 四葉の投げたボールは高速回転しながらすっとんでいく。


 乱回転するボールがパネルに激突すると、1~9のパネルが全部吹っ飛んだ。


 それどころか、フレームの枠をぶち抜いていた。


「ふぉふぁふぁ! どーよ」

「に、人間の腕力じゃねえ……」


「ターミネーターの妹だかんよ」


 得意げに笑う四葉。

 そうだよ、俺はこいつのこういう笑顔が好きなんだ。


「てかこの後どするんだ? 学校の備品、破壊してね?」

「そんなの決まってるじゃん!」


 がしっ、と四葉が俺の手をつかむ。


「にーーーげるんだよぉーーーーーーーーーう!」


 笑いながら、軽やかに校庭を駆け抜けていく。

 俺の手を引いて、前へ前へと進んでいく。


 その底抜けに明るい笑顔と雰囲気に、俺は安らぎを覚えるのだった。

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