64話 いよいよ明日は文化祭【先行版】



 10月。ついに、俺たちは文化祭前日を迎えた。


 コスプレ喫茶をするということで、教室は喫茶店の内装へと変わっている。


 テーブルのうえにはクロスが引かれており、それっぽくなってる。制服もバッチリ。


「やー、おつおつりょーちん。準備大変だったね~」


 幼馴染みの四葉が近づいてくる。

 もう冬服になっていた。


「準備はそんなでもなかったがな」

「あー、セクモンのお世話が大変だったと」


「ああ……」


 みしろが加わったことでどうにか準備は完了した。


 あいつ、本性は同アレ仕事はできるやつだからな。


「餌やり大変そう。こないだも買い出しでやばかったんしょ?」


「ああ……帰りの駅でもやられてな」


「多目的トイレ大活躍だね。つか、30分以上中に入ってると最近じゃけーほーなるらしいよ」


「そ、そうなの?」


「うん。感想欄でそーいってた」


 どこだよ感想欄って……。


「まー、間一髪だったね」

「ほんとそれな……」


「ほどほどにしときなさいよ」

「みしろに言ってくれよ」

「残念だがセクモンの言葉は人間には理解できんのじゃよ」


 ところで、と四葉が咳払いをしていう。


「いよいよ文化祭ですが、約束は覚えてるかね?」


 四葉との約束。

 文化祭で一緒にデートしよう、というものだった。


「忘れてない?」

「忘れてないよ」


「読者は覚えてるかなー」

「誰だよ読者って」


 んで、と四葉がチラチラと俺を見ながら言う。


「デート、する?」

「そりゃ……」


 四葉と出かけたことは多々ある。

 だがデートとなると、初めてだ。


 ……というか、俺は女と関係持つようになってから、まともにお出かけデートしてないな。


 ともあれ、四葉からの申し出を断る理由もない。


 ……あるとすれば。


 俺は準備を終えて、浮ついている教室内を見渡す。


「飯田さん、ちょっといいかな?」

「? なにかな?」


 男子生徒が義妹の夕月ゆづきを誘って、教室を出て行った。


 あいつ、どこに……


「ゆづちゃん、気になる感じ?」


 四葉がどこかさみそうな表情で尋ねてくる。

 別の女に気をそがれたのが気になったのだろうか。


「あ。いや、まあ……」

「ふーん……」


 四葉は目を伏せて、にかっと笑う。


「だいじょーぶだって。アタシとのデートはほら、セフレとのデートみたいなもんだから。本番のデートじゃないし~? ゆづちゃんも、納得してくれるよ」


 まるで自分とのデートが本番ではないと言ってるような言い方だった。


 俺は誰が本命なんだろうか……。

 でも少なくとも、四葉を今まで見たいに、気安い女友達だとは思ってない。


「セフレじゃねえよ、おまえは」

「りょーちん……」


 潤んだ目を俺に向けてくる四葉。

 セフレじゃないのなら、なんだ?


 ……わからない。俺は本当は誰が好きなのか。夕月ゆづきなのか、四葉なのか。


「そか。あたしはキープちゃんってわけだ。1番目の彼女に振られた用の」


「ちげえよ」


「でも、別に2番でもいいよ」


 四葉が両手をカニのようにして、ちょきちょきと動かす。


「それで2番目にりょーちんを独占できるならさ」


 現状に甘んじて、俺は今の関係性について真剣に悩んでこなかった。


 セックスするだけの関係性、以上のことを、俺は考えてこなかった。


 でももうそろそろきちんと向き合わなければならない。


 四葉なのか、夕月ゆづきなのか。


「みしろんは?」

「あれはモンスターだから……」


「先生は?」

「まあー……うーん、どうだろう」

 

 向こうも俺を生徒(ご主人様)としか見てないような気がするしな。


「好きでもないけどとりあえずセックスが気持ちいいから関係を持つかー」


「なんだよ今の」


「りょーちんのマネ」


「俺そんなクズ男じゃねえよ!」


「果たして読者はどう思ってるだろうかね~?」


 だから誰だよ読者って……。


「あ、ゆづちゃん帰ってきた」


 男に呼び出されていた夕月ゆづきが、教室へと戻ってくる。


 四葉と雑談してる俺を見やると、こっちへとやってくる。


「亮太君♡ ただいま」

「お、おう……」


 今までどこに行っていたのか、と聞くのは野暮だろうか。聞きにくいし。


「へいゆづちゃん、今男子とどこ行ってたん?」


 よくもまあ聞きにくいことをストレートど真ん中に聞けるもんだな、四葉よ……。


「クラスの子に、デートしませんかって誘われちゃった」


「へ、へえ……」


 やっぱり夕月ゆづきはモテるもんな。

 スタイルも良いし、明るいし。

 天使みしろ亡き今、第二の天使を担う女子なんだ。


 モテて当然。好かれて当然だし、デートに誘われても……。


 だが……いらっときた。


「YO! 俺の女のくせに、他の男とデートすんじゃねえYO!」


 四葉がラッパーのような言い方で言う。


「なんだそれ……」

「りょーちんのマネ」


「1ミリたりとも似てねえだろ……」

「でもそう思ってたっしょ?」

「いやそれ……まあ」


 ぱぁ……と夕月ゆづきが笑顔になる。


「ふふ……♡ 亮太君、わたしが他の子とデートするの、嫌なんだね?」


 ぐい、と夕月ゆづきが俺に近づいてくる。


「そりゃ、まあ」


「自分は他の女とデートするくせに、よくもまーいけしゃあしゃあとそんなこと、のたまうことができますなー」


 にやにや、と四葉が笑いながら茶化してくる。


「あ、いや……まあ……」


 しかし俺が他の女(四葉)とデートするときいても、夕月ゆづきは微笑んだままだった。


「じゃあ四葉ちゃんの次の日でいいよ。わたし」


「ふーん……よゆーじゃん?」


「うん♡」

「へー……」


 夕月ゆづきはニコニコと微笑んでいる。

 四葉にはさっきまであった余裕の表情はなく、静かに、夕月ゆづきをにらんでいる。

 え、なに……これはどういう状況なの?


「他の女とデートして、寝取ってもいいわけだ?」


「亮太君の心も体も、わたしから離れられないので♡」


「それ作品タイトルだけど、今の内容と乖離してっけど?」


「何言ってるかさっぱりだけど、誰が来ようと亮太君はわたしのものですから」


「小学生とやったかもってなったとき、ものすごく動揺してたくせに?」


 あ、あれ……?

 なんか二人とも、仲悪い?


 あれ、結構仲良かったよね……?

 てかそもそも四葉は2番でいいとか言ってたような……


「お、落ち着けって二人とも」

「「落ち着いてますけど?」」


 半ギレで答えないでよぉ……。


 何はともあれ、俺たちは文化祭を迎える。

 どうなることやら……。

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