36話 元カノ、奴隷に堕ちる【先行版】



 俺の部屋にて、元カノであるみしろからの告白を聞き、義妹の夕月がぶち切れた。


「はぁ……はぁ……」

「落ち着けって夕月ゆづき


「でもこいつは……!」


 倒れ臥すみしろに、憎しみの目線を向ける。

 俺と付き合うとき、好きじゃなかったと、はっきりいった。


 それが気にくわなかったのだろう。


「もう終わったことだから、な?」


 ふーふー、と興奮する夕月ゆづき

 まだ姉への憎悪を消せないのか、にらみつけている。


「俺に免じて、今は我慢してくれ」

「…………」


 小さくこくんと頷き、夕月ゆづきが座り込む。


 一方でみしろはしゃがみ込んだまま、申し訳なさそうな顔で言う。


「……ごめんなさい。でも、信じて、亮太君。あなたを騙してるつもりはなかったです。あなたは、確かに特別だったんです」


「どういうことだ?」


 好きでもないのに付き合ってる時点で、騙してると思うのだが。そうじゃないらしい。


「わたし……男の人が苦手でした。会話するのも耐えきれないし、一緒の空間に居るだけで嫌な気持ちになりました。……でも、亮太君は違うんです。特別なんです。あなたと一緒に居るとき、他の男達に感じる嫌悪感を、全く覚えなかったんです」


 俺は、確かにみしろからすれば、特別な存在だったらしい。

 でも……とみしろが続ける。


「でも……嫌いじゃない、そこまでなんです。ゆづちゃんや、女の子に覚える……好きって感情にまでは、昇華されなくて。そもそも……男の人を好きになったことがないので、わからなくて……」


「だから、別れ話を?」


「はい……あなたを騙してる気はなありませんでした。でも……あなたに申し訳なかった。亮太君が思ってくれてるのは、居たいほど伝わってきたから、好きになれない自分が……申し訳なくて……」


 だから、距離を取ったのか。

 自分を好きになってくれているおれに、好きというきもちを抱けなかったから。


「あなたを傷つけたのは事実です。認めます。ごめんなさい……謝っても、謝りきれないのは、わかってます……」


 また深々と、みしろが土下座する。

 こんなに何度も、元カノに土下座させていると、いたたまれないきもちになる。


 じゃあ夕月ゆづきみたいに罵倒すれば良いのか?

 それも何だか違う気がする。


 彼女はそもそも、人とは違う感性をもっていて、それに苦しみ、世間とのギャップに苦しんでいたと知ったから……。


 でも……。


「それでも、好きでもないのに男と付き合うなよ」


「……その通りです。でも付き合っていく打ちに好きになるのかなって」


「おまえの勝手な都合で、俺を振り回さないでくれよ」


「……ごめんなさい。……ごめんなさい……ごめんなさい……」


 みしろは大粒の涙を流しながら、俺に謝罪してくる。


 俺は何だかやるせないきもちになった。

 相手にも事情があったこと、だと割り切れたらどれだけ楽だったろうか。


「ねえ、姉さん」


 黙って聞いていた夕月ゆづきが、姉に問いかける。


 彼女もまたさっきまでの激情が、好きばかり和らいでるようだった。


 事情を知ったから、だろうか。


「今も……亮太くんのこと、好きじゃないの?」


 けれどみしろは首をはげしく横に振る。


「今は違います、亮太君ごしゅじんさまのことが好きです!」


 夕月ゆづきが悲しそうに目を伏せる。


 姉が自分と同じ人間を好きと思って、勝てない、とでも思ったのだろうか。


「彼と別れて……初めて理解したのです。男の人に、恋い焦がれる感覚に」


 頬を赤くして、みしろが俺を熱心に見てくる。


「毎日彼のことばかりを考えて、胸がドキドキして……やっと私は、亮太君を好きというきもちに確信を持てました」


 みしろもまた、俺が好きだという。


 それを知って夕月ゆづきは更に落ち込んだ。


 そこへ……。


「でも……でもねゆづちゃん。あなたの邪魔を、するつもりはないわ」


「「は……?」」


 突然……え、なに?

 どういうこと……?


「急に、なんですか」


 みしろが真剣な顔で言う。


「わたしは亮太君もすきだけど……ゆづちゃんのことも好きだから。あなたの恋路を、邪魔するつもりはないです」


「わたしの邪魔しない……?」


「はい!」


 みしろが顔を赤くして、はぁはぁと興奮し出す。


「わたしは、2番目でいい! いや、二番以下の……最下位でぜんぜんいいんです! むしろその方がいいんです!」


 だんだんとヒートアップしていく。


「わたし気づいたんです! 妹が、自分の好きな人と同じ人と好きって知ったときに! 誰かに心と体を奪われたとしった……そのとき! 最高の快楽を覚えたんですぅ!」


 だらしのない笑みを浮かべながら、みしろがさらけ出す。


 己の、むき出しの……性癖を。


「こういうの寝取られっていうんでしたっけ? とにかく! 大好きな亮太君ごしゅじんさまが! わたし以外の女に取られたとき! わたしはとても興奮していました! そして! わたしの大好きな妹が、他の男に心も体も奪われて! わたしの手の届かないと知ったとき……! わたしは、××してしまいましたぁ……!」


 賢者タイムが終わったのか、またみしろが興奮し出す。


「いいのゆづちゃん! わたしは亮太君ごしゅじんさまを傷つけた罪人! 本来だったら近づくことさえ許されない存在! でも、その罪を! そそぐために、わたしはこの身をすべて亮太君ごしゅじんさま……亮太様に捧げますぅ!」


 犬のように這いつくばりながら、みしろが俺に近づいてくる。


 しゃがみこんで、俺の足をペロペロとなめ出す。


「亮太様ぁ……♡ 亮太さまぁ……♡ あなたがわたしを振り向いてくれなくても、いい。わたしがあなたを好きなきもちは変わらないからぁ……♡」


 ……良いセリフっぽくあるが、相手の足をなめながら言うセリフじゃない。


 そういうやつなんだ。

 こいつは。


「おいみしろ」


「はい!」


 俺はベルトを外してみせる。


「俺のことが好きか?」

「大好きです!」


夕月ゆづきのことも?」

「大好き!」


 じゃあ……と俺は続ける。


「俺と夕月ゆづきと、俺のこれ。3つのどっちが……」

「亮太様の×××ですぅ……!」


 俺が言い切る前に、みしろが即答する。


「わたしの大好きなゆづちゃんと、わたしの大好きなご主人様が、わたしのような最低の人間のこと! 一ミリも好きになってくれなくってもいいですぅ! でもぉ……! ×××! ×××が欲しいんですぅ!」


 ふりふり、と犬がそうするように、腰を振りながら言う。


「わたしのような罪深い存在は! 亮太様の犬として! 奴隷として! あなた様とゆづちゃんのおそばに一生仕えますぅ! 好きなように虐げて! モノのようにぞんざいに扱って! あなたたちの奴隷としてぇ! 一生をささげますぅ!」


 だから! とみしろが泣きながら土下座する。


「わたしのことはいくら嫌いになってもいい! わたしなんてただの道具でいい! 奴隷で良い! ものでいい! でも好き! ゆづちゃんもご主人様も、ご主人様も×××も大好きなの! だから! あなたたちの、亮太様の×××の、そばにいさせてくださぃいいいいいいいいいいいい!」


 ……とんでもない、告白だった。


 これ、近所に聞かれたら……大変なことになるだろうな……。


「…………」


 夕月ゆづきは、完全にあきれかえっていた。


 そして、一言言う。


「……きもちわる」


 みしろが恍惚の笑みを浮かべて、夕月ゆづきを見上げる。


 一方で夕月ゆづきは、まるでゴミを見るような目で姉を見下ろしていた。


「……亮太くん、私間違ってましたね。こんな頭のなか×××のことばっかりの、ド変態の淫乱女に、劣等感を覚えてたなんて……自分が恥ずかしいです」


 どうやら彼女のなかで、けりがついたようだ。


「おまえの言うとおりだよ。みしろの本質はこれだ。おまえが勝とうと張り合って、努力していた相手は……幻想だったんだよ」


 俺たちが会話している一方で、みしろはまるだしのじょうたいで、俺に期待のまなざしを向けてくる。


 もうその眼には一切の理性が感じられない。

「言質は取った。あとは、分からせる」


 俺は立ち上がる。


「こいつの魂に、体に……一生消えない刻印を刻んでやる。俺に、夕月ゆづきに、逆らえないように……分からせる」


 夕月ゆづきが気にしていたのは、姉に俺が取られること。


「俺はこんな淫乱なモンスターより、夕月ゆづき……おまえの方が好きだよ.」

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