27話 夕月、堕ちる【先行版】



 飯田 夕月ゆづきは、義理の兄である亮太と、やりまくった。


「…………」


 彼女はベッドの上で、立ち上がれないで居る。


 体に全く力が入らない。


 起き上がりたくない。

 体からは意思の力が完全に奪われている。


「だ、大丈夫か……?」


 亮太が心配そうに顔をのぞき込んでくる。


「…………」


 ぱくぱく、と口が動く。


 言葉が、出てこない。


 何もできない。しゃべることも、立ち上がることも……今の彼女にはできない。


「す、すまん……やりすぎた……」


 何で謝るのだろう。


 謝ることでもない……。


 ただ、兄が凄まじい力を持っているだけ。


 その力に耐えきれなかった、ただそれだけだ。


「水でも持ってくるよ」


 こくりともうなずけない。

 

 動けない。ただ……温かいお湯の中にただよっているような、幸福感に包まれている……。


 やがて兄がやってきて、彼女を起こす。


「ほら、飲めるか?」


 彼女の唇に、ペットボトルを押し当てる。

 だらだら……と口の端から水が漏れる。


 水を飲むことすら、今の彼女にはできなかった。


 喉が、乾く。

 乾いてしょうがない。


 けれど意思に反して、体が言うことを聞かないのだ。


「す、すまん……」


 亮太は口に水を含むと、彼女の唇にキスをする。


 口の中にゆっくりと、生暖かい水が入ってくる。


 夕月は赤ん坊のように、それをゆっくりとこくん……こくん……と飲み込む。


 叫びすぎて、かすれきった喉に……。


 水がしみこんでくる。


「どうだ……?」


 亮太が顔を離す。


「……っと」


 喉が潤い、ようやく、声が出た。

 さっきまで声が出なかったのは、たぶん、叫びすぎによる影響だろう。


 これがぼろアパートだったら、今頃通報されていただろう。


「もっと……くだ、さい……」


 知らず、敬語になってしまう。


 夕月のDNAには、刻み込まれてしまった。


 このりょうたには、絶対に勝てない……と。


 でも負けることに対して不快感はなかった。

 むしろ、彼に対して負けることを、どこかうれしく思う。


「もっと?」

「もっと……」


 ペットボトルの口を、近づけてくる。


「やぁ……ちがう、のぉ……」


 ん……と唇をつきだす。

 まるで赤ん坊のように、おねだりする。


 亮太は口に水を含んで、またキスをする。


 夕月はうれしそうに唇にすいついて、こくこく……と水を嚥下する。


 少しずつ……体に水分が行き渡る。


 体から出ていった、凄まじい量の水分が、少しずつだが戻っていく……。


 やがて、何度目かのキスを終えて、ようやく夕月は、会話できるようになった。


「りょうた……さまぁ……」


 知らず、様を付けてしまう。

 もう体も心も、メロメロのドロドロにされてしまったのだ。


 そう、夕月とみしろは双子。

 ふたりとも、隷属願望があった。


 彼女たちはとても似ている。

 ふたりとも、凄まじいまでの、性欲を己の身に秘めているのだ。


 今まで、それを満たしてくれる器はなかった。


 けれど今、彼女の前にはある。


 自分の、底なしの性欲を満たしてくれる、逸材を。


 唯一無二の、存在を。


 ……だからこそ、夕月はみしろに、この男を譲りたくないのだ。


「夕月……。おまえ、みしろと何があったんだよ。教えてくれよ」


 耳が、心地よい。

 彼の声を聞いているだけで、幸せになる。



 だが……物足りない。

 それじゃ……駄目だ。


「……して」

「なに?」


「……命令、してください……♡」


 だらしない顔で、媚びるように、夕月が言う。


「……言えって、強い言葉で、命令してくださいぃ……♡」


 今の夕月は、完全に亮太に屈服している状態だ。


 彼の言うことを何でも聞きたい。

 強い言葉で、命令して欲しい。


 彼に、隷属したい。


「……じゃあ、夕月」

「はい♡」


「言え」


 ……駄目だった。

 強いオスに、従いたくってしょうがない。


 己のなかに飼っていた、奴隷願望が……目を覚ます。


「いいます……いいましゅぅ……♡ みしろとの、こと……いいますぅ……♡ りょうたさまぁ……♡」


 媚び媚びな声を出して、亮太に言う。


 そう……今の夕月の魂は、亮太による行為によって、すっかり隷属してしまってるから。

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