28話 義妹の過去【先行版】



 俺は夕月とやりまくり、ついに彼女の本心を引き出した。


 ……引き出すための手段がセックスっていうのが、またなんとも……いや、まあ。


 俺たちがいるのは自宅の風呂だ。


 二人並んで、湯船に浸かっている。


「きもちいです……」

「だな……」


 夕月は体中びしょぬれのぐしょ濡れだった。


 風邪を引いてはいけないと、風呂に移動してきた次第。


「それで、おまえとみしろの関係なんだが」


 夕月がぴくっ、と体をこわばらせる。


 やはりどこか抵抗を覚えてるようだ。


「言ってくれ。俺は知りたいよ、おまえのこと」


 いちおうは兄貴だし……それに。


 兄貴だからって、それだけが理由でもないが。


「あっ♡」


 びくっ! と夕月が体を震わせ、くたぁ……と俺に体をよせる。


「え、今ので?」

「はぃ……♡ 亮太君ごしゅじさまにつよくめいれいされると、もうなにもさからえないのでぇ……♡」


 なんかやっぱり、俺の周りMなやつばかりなきがする……。


 夕月は気を取り直して言う。


「まあ、よくある話しだよ。わたしは、姉さんとずっと……比べられて育ったの」


「みしろと、比較されて?」


 夕月がうなずく。


「ねえ、亮太君。姉さんの……全国模試の順位って知ってる?」


「いや、知らないけど……。まあでも頭良いとは聞くな」


 夕月はうなずいて答える。


「全国1位だよ」


「………………まじで?」


「うん。1位。あの人は……昔から、すごくすごく出来の良い姉だったんだ。……一方で、わたしは、出来の悪い妹って、ずっと言われ続けてきたの」


 夕月は語る。

 彼女の過去を。


 彼女のもといた、【梓川あずさがわ】の家は、とても由緒正しい家であるそうな。


 父親は姉妹に、小さい頃から、勉強、お稽古事、スポーツなどなど……厳しく指導した。

「姉さんは、ど淫乱のど変態の性格破綻者だけど、教えたことは一回で覚えたの。まるで超能力者みたいにね」


 ひどい言われようだが……。


 まあ確かに、みしろは運動も勉強もできていた。


 それは昔からなのか。


「いっつも……姉さんは褒められてた。すごいわね、偉いわね……って。一方で……どうしてわたしは、姉さんみたいにできないのかって、常に比較されて育ったの……」


 ぎゅっ、と夕月が歯がみする。


「みしろは、みしろは、みしろは……って、みんな言うの。もう、自尊心はボコボコだよ」


 ……奪われたってのは、彼女の持つ自尊心ってことだったのか。


 そりゃ、自分と似た境遇、しかも双子の姉が、それだけ何でもできたら……。


 比較されて育った夕月の自尊心は、凹んでしまってしょうがない。


「いっつも……あいつは賞賛された。どれだけ頑張っても、認められようって努力しても……結局は、全部姉さんが奪っていくの。わたしの努力も、結果も……なにも、かもを……」


 目に見える何かを取られたんじゃなくって、彼女のなした結果を全部奪われた、ってことか。


「でも……それは別にみしろが悪いわけじゃ……」


「わかってる。わかってるよ……姉さんは悪気があってやってないって。だから……余計にたちが悪いの」


 みしろはあくまでも、与えられた課題をこなしているだけ。


 別に妹を見下すつもりも、けなすつもりも、蹴落とすつもりもない。


「姉さんと比べられすぎて……途中で……もうなんだか、おかしくなっちゃって。自分でも……訳わかんなくなっちゃって……」


 親に認められようと必死だったんだろう。


 だがいくら頑張っても認められない。

 姉ばかりが褒められる。


 そんな日々が続いたら……おかしくなってもしょうがない。


「……小学校高学年のとき、かな。一回、自殺しようとして、学校の屋上から飛び降りたの」


「! 飛び降りたって……」


 今生きてるってことは、無事だったんだろうけど。


 それでも……屋上から飛び降りて、無事であるわけがない。


 弱々しく、彼女が笑う。


「そしたらね、気づいたら1ヶ月くらい経ってたの。その間の記憶がなくって……代わりに、親が離婚することになってた」


「記憶がないって……何があったんだ?」


「わからない。本当にその1ヶ月間の記憶が、ないの。でもお母さんは泣いてて、ごめんね、ごめんねって……」


 母は、夕月をかばってくれたらしい。

 一方で父親は、夕月を非難したとのこと。


梓川あずさがわの恥さらしって、言われたの」


「恥さらしって……ほんとなにがあったんだ?」


「さぁ……。わからない。でも前からお父さんさんは、出来の悪い妹をきらってたし。わたしをかばったお母さんと何度もケンカしてたし……」


 結局父親がみしろを、母親が夕月を引き取ることになって、離婚したらしい。


「これで、全部だよ。……私が姉さんを嫌うのはね……あの人が私のがんばりも、結果も、何もかもを無自覚で奪っていったから。傷つけてることに、気づかずに……わたしを傷つけてくるから」


 だから、嫌い。


 夕月はそれ以上何も語らなかった。


 予想以上に、ヘヴィな案件だった。


 姉との不和。

 家族の崩壊。

 自殺、そして……空白の1ヶ月間。


 彼女の抱えていたものは、とても大きすぎた。


 とても、小学生で処理できるような内容じゃなかった。


「みしろと俺がやるの、嫌な理由は……?」


「……亮太君が姉さんとやって、姉さんのほうが、わたしより良いって言われたら……今度こそ、わたし、壊れちゃう」


 向かい合うように、夕月が俺に抱きついてくる。


「他の女と……やるのはいいよ。でも姉さんは……駄目。またあの女は、わたしから大事なモノを奪っていくんだ……大事な、大事な、亮太君まで……」


 ぎゅーっ、と彼女が俺を強く抱きしめる。


「ねえ……亮太君。あの女ものへいかないで。あなたに全部あげるから。私の肉体も、魂も、人生も……。だから、お願い……」


 絞り出すように、夕月が言う。


「……あの女のもとに、戻らないで。わたしのそばに居

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