18話 親友と保健室で。先生に見られる


 ある日のこと、学校に。


「おぃーっすりょーちん。四葉さん復活だぞー」


 松葉杖をつきながら、俺の親友・贄川にえかわ 四葉が教室に入ってきた。


「おう、久しぶりだったな」

「とはいっても毎日やりまくりだったけんどね♡」


 ……部活帰りに様子を見に行くたび、俺は四葉と行為を繰り返していた。


「おはよ、四葉ちゃん♡」


 隣に座る義妹・夕月ゆづきが、笑顔で挨拶をする。


「うーっす、ゆづちゃーん!」


 二人は仲が良い。

 義妹曰く、この子とやるのは良いとのこと。

 というか、姉以外なら別にどんな女抱いてもいいとかなんとか。


「…………」


 教室の片隅では、件の元カノ、梓川あずさがわ みしろがこちらを見ている。


 血走った目で、こちらをガン見していた。


「りょーちんどったん?」

「いや……なんでもない」


 ……みしろは何を考えてるのだろう。

 夕月ゆづきの代わりに自分としてくれなんて言ったときは、正気を疑った。


 あの真面目で、天使様なんて言われてる元カノが……。


「なーなーりょーちん、そろそろ修学旅行じゃん?」


 ふと四葉がそんなことを言う。


「修学旅行……そうか、もうそんな時期か」


 俺たちの通うアルピコ学園は、2年生のこの時期に、修学旅行が行われる。


 3年になるとソンナコトしてる暇無くなるからな。


「今日班決めだけどさー、アタシとゆづちゃんとりょーちん、あとだれにする? 四人編成の班だけど」


「そうだな……」


 別れる前はみしろ、と即答できた。

 だが今は別れたし、夕月ゆづきとみしろは馬が合わない。


「余ったやつで適当でいいんじゃないか?」

「せやなー」


 そんなこんなしてると授業が始まる。


 授業中も、ふと視線を感じてみると、みしろがこっちを凝視していた。


「…………」


 なんなんだ、あれは。

 俺はあいつを拒んだし、あいつも俺を拒んだじゃないか。

 

 だというのに、ずっとこっちを見ている。


 俺と目があっても、そらそうともしない。


 なんなんだよいったい……。


 ほどなくして。


「りょーちん、りょーちん、保健室つれてって」


 次の授業は自習となった。

 四葉がそんなことを言う。


「保健室?」

「そ。なんか足の調子が痛いんだわー」


 本当だろうか?

 単に足が痛いのを口実に保健室でサボろうってんじゃなかろうか。


「わかったよ」

「えへへ♡ てんきゅー。ゆづちゃんちょーっとお借りしまーす♡」


「うん、どうぞ♡」


 なんだ、借りるって……?


 俺は四葉の付き添いで保健室へと向かう。


「あら、いらっしゃい」


 保健室には、若くて綺麗な先生がいた。


「やっほー、ゆりちゃん!」


 諏訪すわ 百合子ゆりこ

 保健の先生だ。


 女子大を卒業したばかりだそうだ。

 

 眼鏡をかけている。

 胸が大きく、腰はくびれてて、大人の色気をだしつつも、歳若い。


 男子達に超人気の先生だ。


「あ……」


 ふと、諏訪先生と俺と目が合う。


「こ、こんにちは……」

「? こんにちは、諏訪すわ先生」


 なんだか知らないが顔を赤くして、諏訪先生が目をそらしてしまう。


「きょ、今日はどうしたの……かしら?」


「足痛いんでベッド借ります!」


「ど、どうぞ……」


 四葉がベッドへと移動する。


「きょ、今日も……その、飯田くんは贄川にえかわさんと……」


「はい?」


「ああ! ううん! なんでもないの! せ、先生ちょっと用事あるから、あとよろしくね!」


 顔を赤くすると、ぱたぱたと諏訪先生が去って行った。


「ゆりちゃんどうしたんだろ?」

「さぁ……なんか顔が赤かったなやけに」


「もしかして……あたしらのセックスばれたとか?」


「は? なんでだよ」


「だって初めてここでやったとき、ゆりちゃんだったじゃん、当番」


 そういえば足をぐねってここに四葉が運ばれたとき、面倒を見たのは、さっきの女子大上がりの保健の先生だったな。


「まさか。証拠は残さなかったし、ばれてるわけ無いだろ」


「んー……そうか。ま、そうだね! さぁて~……♡ りょーちん?」


 にまぁ……と四葉が妖しく笑う。


「自習、しようぜ~?」


 スカートをめくって、ふりふり、とお尻を俺に突き出してくる。


 ほらやっぱりこうなる……。


「ねーねー、ご主人さまぁ~ん♡」


 二人きりの時、よく四葉は俺をご主人様呼びする。


 その方が興奮するのだとか。


「四葉に昨日の復習おねがいします……♡」


 俺は要求通り四葉に覆い被さって、昨日と同じ事をする。


 ガタンッ……!


「! やべえおい起きろ! 四葉!」

「んぇー……?」


 ヘロヘロになった四葉を起こす。

 着衣を治させる。


 だが、いくら待っても諏訪先生は来ない。


「ありゃ? ゆりちゃんじゃないのかな?」


「おかしいな……先生が帰ってきたんだと思ったんだが」


「別の人がのぞき見してたんじゃないのー?」

 

 ……かもしれん。


「はーちょーすっきりした! やっぱご主人様の折檻せっかんは世界一!」


「おい戻ってないぞマゾモードから」


 ガラッ……!


「…………」


「おーっす、ゆりちゃーん!」


 諏訪先生がこちらにやってくる。


 眼鏡が少しずれ下がって、頬が赤い。


「先生帰ってきたから俺戻るな」

「ほいさー、じゃーにー」


 俺は諏訪先生の横を通り過ぎようとする。


「…………」


 先生に、ガン見された。


「なにか、諏訪すわ先生?」

「あ、う、ううん! な、なんでもないの! なんでもないのよ!」


 顔を真っ赤にして、ぶんぶんぶん! と首を横に振る先生。


「? 失礼します」


 なんだったんだろう?


    ★


 諏訪すわ 百合子ゆりこ


 今年で23歳になる。


 女子校出身、女子大卒。

 男に免疫がほとんど無い環境に生まれ育つ。


 男が嫌いなわけではない。

 むしろ興味津々だ。


 だが、同世代や年上の男性に同声をかけて良いのかわからないだけ。


 付き合うなら年下の男の子が良いなぁ、なんて思っているが、しかしここには学生しかいない。


 ようするに、出会いがない。


「はぁ……」


 そんな百合子には気になる男子がいる。


 飯田いいだ 亮太りょうただ。


 バスケをしているからか背が高い。

 それ以外に特徴の無い彼に、なぜ引かれてしまうのか……。


 それはつい先日、ここに足を怪我した女子生徒が来たとき。


 百合子は目撃してしまったのだ。


 ……生徒ふたりが、激しく抱き合っていた。



 百合子はその場を一度離れる。


 どきどきして、仕方なかった。


 ビデオや漫画などで、見たことはある。

 というか、百合子は結構その手のものをたくさん買っている。


 男の子は苦手だが、性欲は強いのだ。

 女子校出身の中には潔癖症・男性恐怖症の人が多い。


 が、百合子は別である。


 本当は男の子とそういうことをしたくてたまらない。


『あれが……リアルの……』


 あの日以来、亮太と四葉の行為が頭に残っていた。


 また来ないかな……と期待している自分もいた。


 だがここ数日は四葉が学校に来なかったこともあって、二人がすることはなかった。


 そして……今日。


 保健室をいったん開けて、戻ってみると……。


 ドアの前で、


梓川あずさがわ みしろさん……?』


 みしろがドアの前に張り付いいた。


 その表情に見覚えがあった。

 というか……つい先日、自分も全く同じような顔をしていたと思う。


 みしろは百合子に気づくと、がたんっ! とドアに背中をぶつける。


 そして全速力で去って行った。


『なんだったのかしら……』


 とはいうものの、少し、予想がついていた。

 おそらくは……。


「…………」


 四葉が帰って行ったあと、百合子はベッドへ向かう。


 シーツは、汚れていない。

 だが……ベッドの下に、1つの箱が落ちていた。


「避妊具……」


 おそらくはあの二人が使ったと思われる避妊の箱が。


 箱の表に書かれているサイズを見て、百合子は目をむく。


「こんな……大きなものが……」


 ……知らず、内股になっていた。

 呼吸が荒くなってしまう。


「だ、駄目よね……これ……。うん……注意しないと……うん。先生として……」


 血走った目ではあはあと繰り返すその姿は、とても教師のものとは思えない。


「そうよ……生徒の間違った性知識をつけないよう、指導するのも……保健の先生の、仕事。そうよ、百合子。間違ってないわ」


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