6話 義妹と風呂場で
俺のクラスに、義妹の
今日は部活の朝練があった。
じゃんけんで負けた俺は、モップ掛けをしたあと、男子更衣室へと戻る。
「あ、りょーちん、おつー」
男子更衣室には、ショートカットの女がいた。
ベンチに腰掛けて、俺の持ってきた少年漫画誌を広げて読んでる。
「
この女は
俺の小学校のころからの悪友で、まあ、幼馴染ってやつだ。
「男子いないじゃん」
「目の前にいるだろうが」
「ほらりょーちんは男子だけど、男子じゃないから」
なんだそりゃ……。
ベンチに胡坐をかいて漫画雑誌を読む姿からは、とても17の女とは思えない。
「おまえいい加減に、マガジャン自分で買えよ」
「我が家のお小遣い事情はきびしいのだよ、りょーちん」
マガジャンをペラペラめくりながら四葉が言う。
「デジマスはやっぱおもれーわー。ねー、そうおもうっしょー?」
「それもってっていいから、さっさと出てけ。着替えられないだろ」
「ああ、あたしそういうの気にしないからお構いなく」
「俺が気にすんだよ……」
動く気なさそうだ。
やれやれ……さっさと着替えるか。
「そーいやさー、りょーちんのとこの義妹ちゃん、おるやん?」
「あ、ああ……」
四葉が漫画を読みながら聞いてくる。
「なーんかあっという間にクラスの人気者になったねー」
四葉とは同じクラスなので、夕月のことを知っている。
「子犬みたいに無邪気でさー。コロコロよく笑うし、誰に対しても明るくて素直で、おまけに巨乳。これで人気が出ないわきゃない」
夕月は男女問わず人気がある。
アイドル的な地位を確立していた。
「もう彼氏いんの?」
「いや……」
「え、うっそぉー。あんだけ顔も良くてスタイルも良くって、明るくていい子ちゃんなら、彼氏の一人や二人いてもいいのに! ね、ね、本当は知ってるんでしょ? だって一緒に住んでるんだし!」
着替え終えて振り返ると、目をキラキラさせている四葉がいた。
「いないよ」
「なんだー。ま、ガード堅そうだしね意外と」
「そ、そう思う?」
「うん。だってブラコンアピールしまくってんじゃん?」
夕月のやつ、教室で結構人気がある。
男に言い寄られることも多々ある。
『ごめんなさい、わたし、兄さん好きなので♡』
と堂々と答えるのだ。
もちろん、みんな本気にしてない。
「可愛くて巨乳でブラコン! かー! 男の妄想の権化かよってねー」
……みんな、夕月は単なるブラコンだって思っているらしい。
「ブラコンってアピールすることで、男を寄せ付けない。でもあたしはわかる、あれは戦略だね。本命を隠すための、隠れ蓑だよ」
俺とべたべたしても、クラスの男たちは生暖かい目で見てくる。
『兄妹だしな』
『仲のいい兄妹だなぁ』
『飯田は夕月ちゃんの兄だからな恋愛対象外だもんな』
とまあ、今のところ、夕月がクラスで俺にべたついてきても、許されている。
「絶対あれは好きな人いるね」
「……だろうな」
「気にならんの?」
……気にするも何も、俺らしいからな、どうやら。
「りょーちん教室いこー」
「おうよ」
俺は漫画雑誌を受け取り、四葉と一緒に部室を出る。
「夕月ちゃんが人気急上昇の一方でさ、あんたの元カノは、その……元気ないね、最近」
ずきり、と胸が痛む。
元カノ、
「前はみんなに優しくて、頭もいいし、性格もいいから、天使さまって呼ばれてたけどさー、なーんか最近感じ悪いよね。話しかけられても上の空だし」
そう、みしろは夕月が転校してきた日から、態度がガラッと変わったのだ。
今まではクラス中のみんなから人気者だったのだが、今はアンチが増えてきている気がする。
「元カレとしては、気になる感じなん?」
「は!? べ、別に関係ないし……」
……とはいえ、みしろが元気ないのは気になるところだ。
何かあったのだろうか。
「……そっか、まだ忘れられないのな」
「は? なんて?」
「なんでもねーよーだ」
ばしっ、と四葉が俺の背中をたたく。
「しゃきっとせんかい! 悩みがあるなら四葉ちゃんがきいたるで? あ、デートしてあげよっか!」
「全額俺のおごりでだろ?」
「おうさ! もちろん!」
「じゃ、遠慮しとく」
「んだよー、けちー」
からからと笑う彼女は、一緒にいてほっとする。
「お前といるのが一番気が楽だよ。女って感じしないし」
「…………」
一瞬だけ、四葉が真顔になる。
だがすぐにニカっと笑う。
「うっせー。ほら、教室いくぞー!」
なんだったんだろうか、今の間は?
★
学校が終了し、部活を終えて、俺は家へと戻ってくる。
「亮太くん♡ おかえり♡」
すぐさま、夕月が出迎えてくる。
外では兄さんと呼び、家では、わざわざ俺を亮太と呼ぶ。
「おう……」
天使のような笑みを浮かべ、亮太と俺を呼ぶ姿は、みしろとかぶって仕方ない。
やめろと言って、決して、夕月はやめてくれない。
「お風呂湧いてますよ~♡」
「……いや、いい」
風呂は、とある理由から、あまり入りたくない。
「だめだよぉ亮太くん♡ 部活でいっぱいいっぱい、汗かいたんだから♡」
部室にはシャワーが付いている。
だがシャワー室は全部活共通なのだ。
うちはスポーツの名門校。
運動部員の数はめちゃくちゃ多い。
そうなると、シャワーの取り合いになるのだ。
「ほら、ね? シャワー浴びた方がいいですよ♡」
「ああ……」
俺は重い足取りで風呂場へと向かう。
汚れたシャツや洗濯物を突っ込んで、ふろに入る。
かしゃん、と風呂場のドアの鍵を閉めて、俺はシャワーを頭から浴びる。
「…………」
風呂場に満ちるのは、甘い甘い香り。
夕月は必ずといっていいほど、俺が入る前に風呂を使っている。
そうなると、風呂場に充満するのだ。
女の、甘い香りが。
むせかえるような、花のような香り。
……困ったことに、みしろと同じなのだ。
かしゃん、とロックが解除される。
またか、と思いながら、なかば諦めながら振り返る。
「亮太くん♡」
「……夕月。おまえ……入ってくんなっていつも言ってるだろ」
同棲を始めて10日。
こいつは、毎日のように、俺が風呂に入ってくると、浴室へ突撃してくるのだ。
鍵はきちんと閉めている。
だが、コインを使って鍵を空けてくるのだ。
くそ! 風呂場の鍵って、がばがばすぎんだろ!
「出てけよ」
「いやでーす♡」
……教室ではいい子ちゃんで通っているらしい。
人懐っこくて、素直で……か。
みんなはそう思ってるらしい。
だが、俺だけは知ってる。
「ね……亮太くん♡」
ぱさ……と夕月がタオルをはだける。
……極上の裸が、俺の前にさらされる。
真っ白で、染み一つないからだ。
目を見張るほど大きな胸。
見ては、いけないとわかっている。頭ではそう、わかってるんだ。
だが、だがこいつが、みしろの声で、顔で……体で、俺の目線を釘付けにする。
「で、出てけって!」
「いや♡」
「じゃあ俺が出てく!」
俺は夕月を押しのけて出ていこうとする。
だが後ろから、カノジョが抱き着いてくる。
「……いいの?」
耳元で、ささやきかけてくる。
「……見なくていいの? みしろの、体」
「っ、おまえは! みしろじゃねえ!」
振り返ると、くすくすと、妖艶に夕月が笑っている。
教室では、みしろの代わりに天使のような笑みを浮かべてる。
だが、家に帰ればこれだ。
俺にだけ、悪魔みたいな、蠱惑的な笑みを浮かべる。
「ねえ、兄さん? どうして拒むの?」
「俺たちは兄妹だろうが!」
「そうだよ♡ 兄妹なんだから、一緒にお風呂入っても……問題ないでしょ?」
ね、と笑う夕月。
「あはっ♡ 亮太くんの、とぉってもおっきねぇ♡」
熱烈な視線を向ける夕月。
俺は内またになって隠す。
「いいなぁ、姉さんはぁ♡ うらやましいなぁ。亮太くんに抱いてもらえて」
怪しく笑いながら、夕月が俺に言う。
みしろが、うらやましいだと……?
「馬鹿言うなよ……ありえないよ」
あいつは潔癖症で、キスはおろか、手をつなぐのだって、手袋越しだった。
使う機会なんて、ない。
「そっか……姉さんはいじわるだねー」
くすくす、と夕月が笑う。
「いいんだよ、亮太くん♡ 姉さんがしてくれなかった代わりに、私に欲望をさらしても」
夕月が俺の体に後ろからハグする。
どくんどくん! と俺の心臓が早鐘のようになる。
吸い付くような肌に、極上の柔らかさの乳房。
そして、俺にささやく、悪魔の声は、みしろと同じもの。
「……欲望、ぶつけていいんだよ?」
……俺は揺らぎそうになるが、でも、押しのけて風呂を出ていく。
「ざーんねん♡」
……みしろの体で、みしろと同じ顔で、同じ声で……。
みしろが、言ってくれなかったセリフを、夕月は言ってくれる。
俺の体を拒んだ彼女と同じ顔の女が、俺を受け入れる気まんまんだ。
……俺は、おかしくなりそうだ。
毎日だぞ?
これが、毎日毎晩続くんだ。
……地獄で、悪魔にあってるような、気分だ。
教室では天使な義妹が、家では悪魔であることを、俺だけが知ってる。
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