最強万能大賢者、転生魔法を使ったら宇宙世紀に転生したので科学と魔法で無双する
K.バッジョ
【第1話】平和からのエピローグ
【序章】平和へのエピローグ
荘厳な雰囲気が漂う白亜の大聖堂。
そこには様々な種族が集まっていた。
人間、魔族、獣人、亜人――。
果ては人ならざる者である精霊や神霊たち。
この世界に生きとし生けるものたちが涙を流している。
種族が違おうとも、白亜の大聖堂に居る者たちは皆、一様に悲しみに満ちた表情を浮かべていた。
ある者は涙を堪えて唇を噛み締めていた。
ある者は溢れ出る涙をハンカチで拭っていた。
悲嘆にくれる者たちの視線の先には白い棺が安置されており、その棺の前に立つ黒い祭服に身を包んだ初老の男が、朗々たる声で惜別の言葉を読み上げていた。
「昨日、大賢者にして大錬金術師ジーク・モルガン師が、女神たちの下へと召されました」
声を震わせながら、初老の男性は言葉を続ける。
「師は戦乱に疲弊したこの世界を統一し、人と魔族、獣人、亜人……果ては精霊や神族たちとも手を携え、この世界に平和と安寧をもたらし……この世界に大いなる発展を与えてくださいました」
初老の男の言葉を追いかけるように、集まった人々の悲しみと感謝の声が大聖堂に充ち満ちていく。
「女神ユーミルよ。生きとし生けるもの全てを幸福へと導いた大賢者ジーク・モルガンの魂を導き給え。彼の偉大なる魂に永遠の安息を――」
初老の男の言葉に合わせて大聖堂を満たす弔問客たちが一斉に頭を垂れ、祈りの言葉を唱和する。
ある者は慟哭と共に女神への祈りを捧げ、またある者は真剣な様子で現世より去ろうとしている英雄のために祈り、大賢者ジーク・モルガンへの感謝と惜別の想いを捧げていた――。
ジーク・モルガン、享年118歳。
人種を問わず、世界中の人々に見送られた大賢者と呼ばれたその男は、静かに世を去った――。
「これでようやく終わりか……長かったなぁ」
周囲には何もなく、見渡す限り純白の空間が広がっている。
ここは最初に異世界転移してきたときに訪れた場所だ。
そこで俺は溢れ出す感慨深さにしみじみとした呟きを漏らしていた。
「日本からこの世界に転移させられて早百年。自分なりに世界平和を実現できるように頑張ってきたけど……念願叶って良かった」
「そうねー。貴方は私の願いを聞き届けて頑張ってくれた。……心の底から貴方に感謝します、ジーク・モルガン。いいえ、森川迅悟と呼んだほうが良かったかな?」
「どっちでも良いさ。森川迅悟も、ジーク・モルガンも、どっちも俺の名前だから。……久しぶり、女神ユーミル」
声の聞こえた方向に振り返ると、そこには俺を異世界転移させた張本人の女神ユーミルが佇んでいた。
「お久しぶりジーク。あなたの魂をこの世界に
「そうだな……あれから、俺、頑張った。超頑張ったぞ。頑張って、ユーミルの願いを叶えたよ。満足してくれたか?」
「ええ、もちろんよ! 貴方は私の願いを叶えてくれた。このルミドガルズ世界に平和をもたらして欲しいっていう、私の願いを!」
「時間、掛かっちまったけどな。すまねえ」
「ううん。世界の覇権を巡って血で血を洗う戦乱の世だったこの世界を、たった百年で、誰もが幸福に満ちた平和な世界にしてくれたんだもの。謝ることなんてないわ」
そう言うとユーミルは愛おしげに俺の手を取った。
「魔法と錬金術を発展させ、生産技術を向上させ、全ての人々に広く教育を施してくれた貴方の功績、私、ずっと忘れないからね」
「大袈裟だよ」
「そんなことない! だって貴方が実現してくれたことは、私が目指していた世界の姿そのものなんだから!」
「そっか。……役に立てたようで何よりだ」
「今度は私の番。私が貴方の願いを叶える番よ。大賢者ジーク。あなたには女神の願いを叶えてくれた褒美を与えます。何がいい?」
「ご褒美かー……」
「何でも良いわよ。そうだ、この世界へ転移する前の日本に戻りたいっていう願いでも、私なら叶えてあげられるわ。どう?」
「日本に戻る、か。それも良いかもな……」
「決まりね。じゃあ早速――」
「待て待て、そう早まるなって!」
「何よ? 違うの?」
「違うっていうか、それも悪くないとは思うんだけど。……百年も過ごしたこの世界に愛着があるっていうのも本心なんだよ」
戦乱渦巻くルミドガルズを平和にして欲しい――。
俺の魂をルミドガルズに召喚したユーミルから願いを託され、俺は十六歳からルミドガルズ世界を旅して、様々な人々と交流を重ねてきた。
亜人、獣人、魔族、悪魔に女神に邪神とも交流を持った。
時に剣を交え、時に語らい――ただひたすらに平和のため、皆を説得して回った。
東で争いがあれば瞬間移動して調停し、西に飢饉があれば錬金術を駆使して豊作にし――頭と身体を使い倒して世界の平和を実現した。
平和になったこの世界がこれからどうなっていくのか。
その未来に興味がある。
「だから実はもう決めてるんだ。俺はこの世界に転生する。転生して、平和な世界で幸せになった人々を眺めながら、のんびり暮らしたい」
「そうなの? 本当にそれで良いの? 日本に帰りたいんじゃない?」
「日本で暮らしていた時間よりもこっちの世界で暮らしていた時間のほうが長くなっちまったからな。俺はユーミルの居るこの世界で転生するよ」
「そう……分かったわ。じゃあジークの転生は私が責任を持って――」
「あー待て待て。実はもう仕込みは済んでる」
「へっ?」
「死ぬ間際に転生魔法を発動させたんだ。自分の魂に全ての記憶とスキルを刷り込んで、この世界に転生できるようにしておいた」
「なっ!? はあっ!? どうしてそんなことができるのよっ!? 輪廻を司るのは神だけの御業よっ!?」
「これでも俺は大賢者にして大錬金術師様なんだぜ? 転生魔法を新しく作るぐらいワケないって」
「なにそれ。誰よこんなチート野郎を私の世界に招いたのは!」
「おまえだおまえ。俺のチート能力、全部おまえがくれた能力だぞ?」
分析や無限収納などの異世界転生モノの物語では一般的なチートスキル。
それと神様に匹敵する膨大な魔力量。
更にユーミルから最強のチートスキルを転移時に与えられた。
そのスキルの名は『全てを識る者』。
これは世の『理』の全てを解明し、理解し、把握し、応用する能力を得ることのできる万能チートスキルだ。
「使いこなしていくうちにこのスキルのヤバさに気付いたよ。ぶっちゃけ、これって神様専用のスキルなんじゃ? ってな」
「そうよ! それは私だけが持つ創世の女神専用のユニークスキルなのに! って、私、そんなスキルあげたっけ?」
「もらった。っていうか、そもそもスキルなんて誰がくれるだよ。女神のおまえしかいないだろ」
「そうだったっけ……ううっ、たった百年前のことなのに忘れてるなんて。私、どんだけポンコツなの……」
「そう落ち込むなって。ユーミルがポンコツなのは今に始まったことじゃないだろ。この世界が戦乱の世になったのも、おまえのポンが原因だし」
ルミドガルズ世界を創世したあと、ユーミルは人々が苦労をしないように強力なスキルをバーゲンセールのように授けまくった。
結果として、強力なスキルを持ったものたちが『最強は自分だ』と誇りだして力を誇示するようになってしまったのだ。
自己顕示欲の固まりとなった人々が、血で血を洗う闘争を繰り広げるようになったのも無理はない。
「酒場のおかみさんが最強の筋力強化スキルの『サイクロプスの豪腕』スキルを持っていたり、下っ端神官が簡単に究極の回復魔法の『
ウルトラレアスキルに属する強力な希少スキルが、少しもレアじゃない世界だったのだから、皆が皆、スキルを乱用したのだ。
ルミドガルズ世界が戦乱の世になったのも当然の帰結だろう。
「力を持てば試したくなるのが人ってものだし、人より優れていると気が付いたら誇りたくなるのが人情だ。その行き着いた先が何百年も続いていた世界大戦ってわけだ。収めるのに俺がどれだけ苦労したか……」
「ううーっ、ごめんってばー。そんなにグチグチ言うことないでしょ」
「尻拭いをしたのは俺なんだから少しは言わせろ。人類を甘やかして過保護にするだけが女神の仕事じゃないだろ。何だよ、生まれたばかりの赤ん坊のヒットポイントが一万って。中ボスかよ。いったいなに考えてんだ」
「だって生まれたばかりの赤ちゃんが病気で死ぬの、可哀想なんだもん」
「だからって生命力を盛る必要はないだろ。医学を発展させるように仕向けるとか、人の力でなんとかするように女神として導けよ。何かあったらすぐにスキルや魔法を授けて解決させるから、技術も学問も発展しなくなってて大変だったんだからな」
女神から与えられたスキルや魔法に頼るということは、逆に言うとスキルや魔法に頼ることのできない人々は簡単に切り捨てられるということだ。
事実、あの世界はまさに弱肉強食そのものだった。
「スキルを持っていない者でも幸福になる道があるっていう方が、世界として望ましいんじゃないのか?」
「そうよ。私が目指したのはそういう世界なの。一所懸命した努力が報われるような世界。だからジークが転移したあとはスキル付与は抑えたし! 新しく生まれる子たちの能力値も低めに設定してるし! レアスキルだって簡単には与えないようにしたし!」
「目指してたのなら最初からしとけ」
「ううー、反省してるわよぉ……」
「ま、これからは自重してあまり過保護にしないようにな」
「うん。そうする」
「じゃあそろそろお別れの時間だ。最後に会えて嬉しかったよユーミル」
「そうね。私もよ。……転生したらまた会えなくなるわね」
「それは少し寂しいな。でも女神様からの使命を持たない第二の人生なんだ。のんびり暮らすよ」
「うん。私、あなたが平和にしてくれたこの世界を守ってみせる。だから安心して転生なさいな」
「ああ。きっとできるよ、ユーミルなら」
多少ポンコツではあるが、底抜けに優しくて慈愛に満ちたこの女神なら、きっと大丈夫だ。
――やがて魂が再構築のために分解され始めた。
「どうやらちゃんと転生魔法が発動したみたいだ。そろそろ行くよ」
「ええ。あなたが転生を果たした頃には、今よりももっと平和で幸福に満ちた世界になっているように、私も女神として頑張るわ」
「ははっ、楽しみにしてる。だけど頑張りすぎて空回りしないようにな」
「心配しないで。私を誰だと思ってるの? 創世の女神様よ?」
自信ありげな表情で胸を張るユーミルの姿に、一抹の不安を覚える。
「とにかくあなたは安心して転生なさい」
「おう」
ユーミルに返事をする頃には、魂の殆どが分解されて意識もどんどん希薄になっていった。
「じゃあ、元気でな、ユーミル……」
「あなたもね。……あ、そう言えばご褒美の話を忘れていたわ。あなたには私のとっておきの加護を与えてあげるわね。ええと――」
「ま、待て待て、転生魔法はデリケートな魔法なんだ! しかも転生間際で発動が不安定なこのときに女神の力で干渉なんてされたら――!」
「大丈夫大丈夫! なんたって私、創世の女神だから! ちゃんと転生魔法に干渉しないように加護を授けてあげるって! 私に任せて♪」
(いや無理だろ絶対っ! 大事なところでポンコツを発動するユーミルに、そんなデリケートなことができるわけないだろっ!)
抗議の声をあげてはみたものの、すでに転生魔法は九割九分発動しているために発声できず、魂が再生のために消滅を始めていた。そのとき――。
「あっ!」
(『あっ』ってなにっ!? 何したのっ!? 今度はどんなポンしたのっ!? だから手を出さないでって言ったのにーっ!!)
殆ど消失していた意識のなか、ユーミルの焦ったような声だけが妙に鮮明に聞こえてきたのだった――。
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