第9話:不能なの?
「夜宮くん!」
「うおあっ……!」
綾香と再会した自然公園内のベンチで小説を読んでいた時だった。
突然背後から肩に両手を置かれたので、情けない声が出てしまった。
……本当に、死にたい。
「驚かせるなよな! 何も背後からくる必要ないだろ」
「えへへ、ごめんね」
もう六月だ。
梅雨の時期でもあるため、最近は自宅で過ごすことが多かった。
大雨の日は毎日とはいかずとも、綾香はほぼすべての日に顔を出していた。
最近では、俺のことをからかったり、都内の雑貨店を回ったりすることも多い。
こんな可愛い子を連れ歩くのは注目を集めるから嫌だったのだが、どういうわけかほとんど羨望の眼差しを受けることもなく、平穏無事な生活を続けていた。
「久しぶりの快晴だからって、浮かれてるのか?」
「それもなくはないかな。それよりもこの格好を見て何か言うことはないの?」
そう言われて視線を綾香の身体に向ける。
上はノースリーブで、下は短めのスカートだ。
すっかり夏服使用になったようだ。
かくいう俺もTシャツと短パン一枚というラフに過ぎる服装をしていた。
ちなみに完全な偏見だと思うが、男子の肌の露出は悪魔で、女子の肌の露出は天使だと思う。
「
「バカ」
なぜ、理不尽な暴言を受けなくてはならない。
まあ、俺が天使と思っていても言葉ではラフとしか言っていないのだから当然か。
俺は小説に視線を落とした。
「ね、夜宮くんは不能なの?」
「ひゃいっ!?」
今度は小説を地面に落としてしまう。
この可愛い幼馴染は自分の言っていることが何なのかを理解してからかっているのだろうか。
「綾香は何を言ってるんだよ!?」
「だって褒めてくれないんだもん! 折角勇気出して攻めた服装にしてみたのに……!」
「見せる相手が違うだろ……」
「合ってるけどね」
俺はため息をつく。
どうやら、構ってほしくて仕方ないようだ。
「俺に何をしろというんだ……」
「あのね、わたしと海に行ってほしいの」
「そういえば、こっちに来てから海に来たことはないんだっけか?」
「うん。夜宮くんが知っての通り、わたしたちがいたところって海がなかったから」
それなら、今回は絶好のチャンスというわけだ。
俺はもう何度か見ているので新鮮味はないけど、綾香にとっては最初の海なのだ。
「俺でよければ付き合うよ。……そうだ。これを機に時雨とも会ってみる――」
「それはダメ!!」
今まで穏やかに話していたというのに、急に眉尻を下げて大声で叫ばれた。
訳が分からず、俺は困惑するほかなかった。
「一体どうしたんだよ……。そんなに人見知りがひどいのか?」
「え……あ……ごめん。実は、そうなんだ……」
明らかに嘘をついている態度だったけど、それには理由があるのだろう。
少なくともこの数か月間を見て、俺に害をなす人間じゃないのは確かだ。
「じゃ、今度俺と二人で行こう。それでいいか?」
「ありがと……」
俺の隣りにちょこんと座った綾香の香りにドギマギさせられるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます