セノーラ伯爵領における一連の報告書

セノーラ伯爵領における悪魔事変の報告書

             作成日:創世歴 六五四年 八月二十八日

             作成者:◼️◼️◼️・◼️◼️◼️◼️◼️

              宛て:オニキス・フォン・フェラルド


【顛末】

 七月二十七日深夜にシャラファス王国内で発生した呪術禁書盗難事件の捜査結果を受け、八月二日にヴォルク皇王陛下より第三皇子ルクス殿下がセノーラ伯爵領レシュッツへの視察の任を賜る。後にフィア第四皇女、シア第五皇女の同行が決まる。

 ヴォルク皇王陛下より黒鳳騎士団長リゼル・オルカ以下黒鳳騎士二百名、白鳳騎士団長アンジーナ・フォン・ペリス以下白鳳騎士百名が護衛へと任命される。

 また、両皇女殿下の護衛兼付き人としてレイン・フォン・アストレグが同行を求められ承認される。


 皇都からエラルドルフ公爵領、エラルドルフ公爵領からセノーラ伯爵領レシュッツまでの移動に際する内容に関しては特筆するべき事案がないため別途各騎士団からの報告書を参照。


 八月九日、ルクス殿下は六年ほど前よりセノーラ伯爵領内で発生していた神隠し(後に悪魔とそれに与したナプト商会による人攫いと判明)を知り調査を開始。

 上記調査過程において六年前発生した皇国南部における魔獣被害による復興支援金の不正受領が発覚。

 八月十二日、ルクス殿下が黒鳳騎士二百名を率いてセノーラ伯爵邸を包囲。

 詰問の結果、セノーラ伯爵家は嫌疑を自認し家中調査を開始。セノーラ家嫡男ゲイル・フォン・セノーラ以下十八名が不正に加担していることが発覚、捕縛へ。


 同日、フィア・シア両皇女殿下はレイン・フォン・アストレグ以下白鳳騎士二十名と共にレイン・フォン・アストレグ名義でナプト商会へ赴く。店員の提案で魔力測定を受ける。(レイン嬢の証言により、商会関係者がセノーラ伯爵領内で魔力測定を実施し魔力を持つとわかった者を狙って攫っていたことが判明)

 帰路にて襲撃を受ける。のちに襲撃者は魔人(悪魔が人間の身体を依代に受肉したもの)と悪魔によって実験体とされた神隠し被害者だったと判明。

 また、これ以降、魔人を悪魔と呼称する。

 護衛である白鳳騎士二十名が応戦し敗北。この際レイン嬢には魔力封じの魔道具が作用し魔術の使用が不可に。

 この戦いによって小隊長を含む四名が死亡、十六名が重傷を負う。

 フィア第四皇女殿下、シア第五皇女殿下、レイン・フォン・アストレグ嬢が敵勢力によって連れ去られる。 


 演習場にて事態を知ったアンジーナ団長がセノーラ伯爵邸へ駆け込むことで事件が周知される。

 この時、伯爵邸内で膨大な魔力を感知する。発生源については不明。

 捜索はルクス殿下自ら陣頭に立ち行われ、両皇女殿下の誘拐発覚から時を置かずに誘拐場所を特定。(特定方法についても不明)

 該当地が敵の本拠だったこともあり周囲一帯で両騎士団と敵勢力との戦闘が発生する。ルクス殿下とリゼル、アンジーナ両騎士団長が敵本拠へ突入。

 敵本拠地内での会話等については不明。同建物内地下牢にて連れ去られていた三名を無事に奪還。

 リゼル、アンジーナ両騎士団長が敵勢力の精鋭と思われる悪魔四名と戦闘を開始。この時、悪魔の一体の風貌が七年前に南部で行方不明となり死亡届が出されていたエラルドルフ公爵家長男アルフレド・フォン・エラルドルフと酷似していた。(レイン嬢の証言によると悪魔ヴィネアによって依代とされた可能性が高く、七年前の魔獣発生も悪魔による暗躍があったと思われる)


 両団長が戦闘中、敵首魁である悪魔ヴィネアと何者かが地上にて戦闘を繰り広げる。以後この人物をAと呼称する。(外套を目深に纏っていたため顔は確認出来ず。また、観測していた全ての構成員が対象への記憶が曖昧な為、広範囲への認識阻害の魔術が施されていた可能性あり)

 悪魔ヴィネアにより巨大かつ強力な魔力を放つ魔獣(推定Z級)が召喚されるが、Aの魔術によって討伐される。(この時都市各地で観測していた構成員の携帯式魔力計測機の針が振り切れ故障する。魔獣消失後、花弁の雨と花の香りを確認。精霊魔法の可能性が高い)

 その後、悪魔ヴィネアとAとの間で会話がなされる。防音結界を確認。

 会話中、悪魔ヴィネアの手元に呪術禁書を確認。

 地上から放たれた熱線と吹き荒れる風刃によって悪魔ヴィネアが推定重傷を負う。

 最終的にレイン嬢の水属性第十二階位魔術によって悪魔ヴィネアが討ち取られる。



【備考】

・レシュッツの一区画全体で戦闘が勃発したにも関わらず死者が皆無であった。

・敵構成員より攻撃を受けたが全く傷を受けなかったと多くの騎士が証言。

 このことから何らかの防御魔術が騎士三百名に施されていた可能性を明記する。

・悪魔ヴィネアを圧倒していたAについて、敵本拠地下にて出会ったはずのリゼル、アンジーナ両騎士団長に聴取するが、Aの正体について答えられないと回答する。

 状況から判断するに何らかの契約を結ばされ多可能性が高い。

・レイン嬢が最終局面にて使用した魔術は後の聴取で水属性第十二階位魔術を元に改良・新生されたオリジナルであったと判明。

 第十二階位を超える威力と規模から第十三階位魔術と仮称。

・レイン嬢が討ち取った悪魔ヴィネアの死体は前述の通りエラルドルフ公爵家の故人アルフレドに酷似しており、エラルドルフ公爵自らが確認し本人と判明した。

・レイン嬢の魔術によって凍結した魔術禁書は氷解とともに再生不可の損傷を負ったため、回収目的は破綻した。


【Aの特徴及び、推定能力】

・身長は170cmから180cm、やや細身の男性(リゼル騎士団長への聴取の際に彼と呼んでいたため)

・リゼル、アンジーナ両騎士団長への契約締結のことから何らかの理由で正体を隠していると思われる。

・魔力量は推定S級以上。使用属性は風、光の二属性を確認。

・魔術使用時の規模から最低上位級精霊との契約者と考えられる。

・術式の構築速度が常軌を逸していたことを確認。推定第十階位以上の魔術の無詠唱行使が可能と推測。

・推定Z級魔獣の討伐時の推定精霊魔法の特徴(花弁や香り)がいずれの属性にも一致しないことから知られていない属性を司る精霊との契約者である可能性が高い。



以上。





【報告書と共に入っていた宰相宛の私信】


これは個人的な感覚の話ですが、今回Aから感じた魔力が七年前の第二特秘事案の際に感じたものと酷似していたように思えます。

此度の一件との共通点から当時持ち上がった一説の信憑性は高いと考えます。

戻り次第、本件について話し合いたく存じます。



 


 








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る