死神と予言

@MIO_na

第1話

 深夜一時。手のひらでスマホがジジジと体を震わせ、俺はびくりとする。

「明日、死神を呼ぶ。」

 メッセージは大輝から。俺や大輝を含む五人で作ったトークグループにアップされていた。既読数がパラパラと増え、静かだったスマホの向こう側がざわつき始めるのがわかった。

「死神呼ぶって?」

「なんだそれ」

 返信のメッセージが飛び交うが大輝は既読無視。大輝のいつものやり方だ。


 次の日の朝、俺たちは、さっそく大輝の教室におしかけ、彼をとりかこんで椅子や机に勝手に腰掛けた。ハル、亮、翔一。そして、中央に君臨したオカルト王子が話を始めるのを待っていた。

「おい、早く教えろよ」

 たまらずハルが口火を切った。大柄なハルが小さな椅子にすわって貧乏ゆすりを始める。

「最近界隈で噂なんだけどさ、死神の予言ってやつ。グループトークでさ、お互いの死に方を順番に書きながら、バトンをわたしていくわけ。で、最後の一人は最初に書いたやつの死に方をアップできれば終了。うまくいけば死神が登場して、書かれたように殺されていくんだってさ。ま、昔の怪談話で百物語ってあるじゃん、あれの現代版?」

「うわ。面白そうじゃん。やってみようぜ」

 ハルはさっそく賛同し、亮も同じようにうなずいた。予想通りの展開に、大輝は鼻を膨らませ、ハルの両肩にに手をポンポンと置いた。

「まあ、まあ、落ち着いて聞けよ。どうやらルールがあるらしい。まず、時間帯。夜中の一時頃にはじめて、最後の書き込みを二時きっかりに終了しなきゃいけない。それから、すべての書き込みは全員が見届けること。二時の瞬間に全員の既読がついてなきゃダメ。最後は内容。死神がお好みなのは、なるべく悲惨なに方らしいぜ。ま、普通の死に方じゃお目に留まらないらしい。どう?やってみる?」

 ちょっとした沈黙があった。

 俺は、前にいる翔一の背中をごん、と叩いた。

「おい!翔一!お前ひよってんだろ!」

 翔一の体は、びくんと跳ね上がった。

「うわ!海斗、びっくりさせんな!」

 いつもながら翔一のチキンっぷりに、みんな大声で笑った。

「じゃあ、今夜、夜中の1時に決行。翔一から始めて俺で閉める。」

 オカルト王子が高らかに宣言した。


 その日の夜中、俺たちは「死神の予言」を実行した。


(翔一)

「亮は、明日、電車に敷かれて死ぬ。亮の彼女、愛奈がホームに100円玉を落とし、それを拾おうとした亮は、ホームから足を滑らせて転落。すぐ後に来た電車にはねられた。

 愛奈に100円渡そうとして伸ばした腕が、線路からにょっきり出ていたそうだ。腕以外はぜんぶぐちゃぐちゃに潰れていたって。愛奈の100円のため死んでしまった亮、あわれ。目撃した愛奈は気が狂って病院送り。」


(亮)

「海斗は父親に殺される。原因は母親の不倫。大喧嘩のすえ、包丁でめった刺し。返り血で父さん親の顔も、手も、服も真っ赤だ。階段を上る足音がして、父親は海斗の部屋をノックする。ドアを開けたら最後、握られた包丁で海斗の喉はかききられ、あえなく絶命。無理心中。」


(海斗)

「ハルはサッカーの試合中に、雷に打たれて死ぬ。みんなが避難しているのに、最後までグランドにいたアホハル。落雷した体はまっ黒焦げで裏も表もわからない状態。担架で運ぼうと腕と足を引っ張り上げたんだが、その衝撃で首から頭が抜け落ちて、グラウンドでバウンド。ころころ転がり、見事ゴールへナイスシュート。」


(ハル)

「夜中に風呂に入っていた大輝。シャンプーをしながらふと目の前の鏡を見ると、後ろで誰かが見つめていた。あわてて顔の泡をどけようとシャワーを出したら、熱湯が出た。出るはずのない100度の熱湯で大輝は大やけどになり、病院に運ばれたが、治療のかいなく死んだ。」


(大輝)

「翔一は、女に振られて自殺。腹いせに女の住むマンションの最上階から飛び降りる。パンッとスイカの割れたような音で、頭がい骨とその中身がはじけ飛んだそうな。

 脳みそは半径10メートルは飛び散った。なんと目玉は振られた女のベランダに飛び込んで、悲しげに女を見つめたってよ。ああ、怖い怖い。」


 スマホの画面に悲惨な死に方がひとつ、またひとつ、増えていく。そして最後の書き込みが表れると同時に、画面の小さなデジタル時計が01:59から02:00に変わった。俺の手の中でスマホはジジジと震え、既読表示が5をカウントした。


 俺は緊張で身を固くした。しかし、何もおこらない。まあそりゃそうか。所詮、大輝の持ってきた都市伝説だ。ふっと体から力が抜けて、大輝に文句の一つでも送ろうか画面に指をあてたときだった。「え?」

 ・・・・・・

 既読が6になっている。


 俺はその事実をみんなに知らせようとキーボードをフリックしようとするが、指が震えてうまく入力できない。やがて、既読は5に戻ってしまった。なんだ、見間違いか。そう思ったとき、また俺の手の中でジジジとスマホが震えた。

「さっき、既読6になったよな」

 大輝からのメッセージだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る