ゾンビだらけの世界で僕とおねえさんの

江田・K

0:「夢 ~Nightmare~」



 夏の黄色い太陽は恨めしくなるほど強く激しく煌めいていた。


 コンビニの自動ドアは割れて、開け放たれていた。店内には人の気配はなく、誰もいないようだった。


 荒れた店内を棚から棚へ移動して物色するのは日持ちのする栄養補助食品。それと水だ。壁沿いに並ぶ冷蔵庫はまだ電気が通っていてペットボトルは冷たかった。


 それらを背負ったリュックに詰め込む。できるだけたくさん。ただし、重くなり過ぎないように。


 店内をぐるりと一周する形でレジ差し掛かり、足を止めた。 少し考えて、無人のレジに千円札を一枚置く。


 店を出る。

 いつのまに集まったのか。

 コンビニの外には大勢の――ゾンビ。


 青黒い顔。虚ろに濁った目。声にならない呻き。


 幸い、まだこちらには気付いていない。

 今なら。今ならまだ逃げられる。

 ざり、とスニーカーとアスファルトが擦れる音がした。


 ゾンビたちの、見えていないはずの目が一斉にこっちを向いた。喉の奥で、ひっ、と呼吸が詰まった。


 

 ゾンビがじりじりと近付いてくる。

 包囲の輪が狭まっていく。

 早く逃げなければ。

 走れ。急げ。

 そう思うのに、足は竦んで動かなかった。


 伸ばされた手の先、指、爪までがはっきりと見えた。爪の隙間に赤黒い何かが詰まって固まっている。切り傷に引っかかっているのか、髪の毛か。


「ひっ」


 また、喉が引きつった。

 恐怖に全身が震えた。

 死を覚悟なんてできない。

 死にたくない。

 そう思った。

 

 次の瞬間――


 ゾンビの首が、全て吹き飛んだ。

 噴水のように血が吹き上がる。

 その勢いのせいかどうか、首無しゾンビは不格好なステップを踏みながらバタバタと倒れていった。


 あとに残るのは、血だまり。動かなくなった死体。

 その向こうに――





 ――銀髪の美女がこっちを見て笑っていた。


「おはよぅ」


 優しい声に、僕は目を醒ました。


 なんだ、夢か。

 いや、夢じゃない。

 悪夢のような現実は、今も続いている。


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