第204話 はじまりの愚か者②
自分を含めた誰にも、この世界を結末に至らせないこと。
自らが狡猾にミスリードし、ゲーム・マスターが望む正しい結末に至れなかった者たちの欲や執念すら利用して、次々にこの世界に呼びこまれるプレイヤーが世界を終わらせる――
そのために『
そこにはほんの
この世界の内側にいる者にとっては、実感として千年もの時を過ごさねばならない最先端時間軸――最新のゲーム・イベント、おそらくはラスボス戦――までを何度繰り返してもその心が磨滅し、圧し折られることがないほどの強い望みこそが、Ⅰにそうさせているのだ。
そしてそれをある程度までは検証できる機会が、己が
今なお黒の王の中の人が疑っているのはⅠとⅦ――シェリルに絞られているが、この世界の
そしてその内容次第では、Ⅰと手を結ぶことも充分に可能だとも考えている。
黒の王の中の人とて、真の終劇を迎えてこの世界が終わってしまうことは避けたいのだ。
今の夢のような暮らしを放棄してまで、ゲームである「T.O.T」しか楽しみがなかったような現実世界へ帰りたいなどとは毛先程にも思っていない。
この世界の永続がⅠの目的だというのであれば、黒の王は余裕で手を組める。
今はあくまでも状況から推測しただけにすぎないが、それが正鵠を射ているというのであれば、現プレイヤーである「天空城」と
ゲーム・マスターが望む
それはバッドエンドやビターエンドを
そこへ至るためにはまず
同じ目的に向かって呉越同舟するのであれば、絶対に押さえければならない条件というものがある。
主導権をどちらが持つのか――どっちが強いのかをはっきりさせておくこと。
それが無ければ決定的な瞬間にこそ、それは綻びを晒すことになりかねない。
『
要はこれから、Ⅰを実力で叩き伏せる必要があるのだ。
そしてそれは黒の王自身の手によるものではなく、天空城と手を組んだ相手でも可能だということを実証できる形が理想的なのである。
それにはその適役がいる。
一度は天空城から武器や防具、アイテムの提供までをも受けながらも成す術もなく敗れ、その記憶すら封じられた
彼女がより本格的な支援を天空城から受け、その結果一度は破れているⅠに雪辱を果たせばよいのだ。
◇◆◇◆◇
『先刻ぶりだな、十三愚人の
「な、どうやってここを……」
今まで『十三愚人』側が一方的に仕掛けていたことを天空城にやり返され、黒の王と同じく骨の顔であるがゆえに表情の読めないⅠが、今初めて動揺をうかがわせる言葉を発している。
『なに、
「そんな戯言が通じるわけが……」
『それがそうでもない。運営の依代たる『凍りの白鯨』、その奥義である『制止する世界』ですらそうやって破ってみせた連中なのでな。君たち『十三愚人』も同じことをやってのけているのだ、そう不思議でもあるまい?』
「ぬう……」
どこか楽しそうにそう畳みかける黒の王に喜の気配を感じて、
中でもⅠの居場所を捕捉してのけた
尻尾があったら全力で振っているだろうし、特に褒められずとも主人が喜ぶことをできたというその事実そのものが嬉しくてたまらないのだ。
事実、黒の王の中の人は今とても喜んでいる。
そして愉しい。
精神論がバカにされるようになってから随分久しい現実世界で生きてきた黒の王の中の人にとって、己が
それもただの言葉遊びに留まらず、今黒の王が口にしたような実績を積み上げてみせているともなればなおのことである。
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