第002話 冒険者ギルドでの一幕②
「
これまでの
倒すことが可能なうちで最強の
こうなれば
それだけではなく、ある日「ヒトの力では倒せないとわかっている
実際他の三つの迷宮はそういう状況にあるわけで、国家や冒険者ギルドのお偉方、冒険者を含むヒトの中で最強と目される方々にとっては頭の痛い問題だろう。
「明日、世界が滅ぶかもしれない」ということを事実として背負って生きていくのは、思った以上に大変なプレッシャーだと思う。
国も冒険者ギルドも、なによりも冒険者たちが最も恐れる「
もっとも俺はこの迷宮の第6階層で「
現存するヒトの最高位であるレベル7――プレイヤーならざる存在にはステータスを目視する事は不可能なので、なんとなくその域というだけだが――の壁を突破可能となる第8階層において「
ヒトが本当の意味で
まあそれを知っているからこそ、俺はこの迷宮を選んだわけだが。
「お、
俺を見つけたヴォルフさんが嬉しそうに声をかけてきてくれる。
現時点の全人類中、上から500人以内に入る強さを誇っているのに、偉ぶらない気さくな人だ。
本当に強い存在というのは、そういうものかもしれないが。
ヴォルフ氏のパーティーメンバーの一人である女性弓使いが、今朝と同じように『
結構な美女なんだし、役得だと思え。無理か。
「ヴォルフの旦那の勝ちですよ。この
俺が応える間もなく、ポルッカ氏が俺も約束――今日中に初級
ヴォルフ氏と賭けでもしてたのかな、ポルッカ氏。
新人の生き死にを賭けの対象にしているとすればなかなかに悪趣味だが、活気がある冒険者ギルドでは普通のことなのかもしれない。
そんな中から生き残り続ける者だけが、熟練の冒険者になれるのだ。
「マジか! てこた本物の「魔法使い」様かよ! おいおい本当にうちのギルドに入ってくれよ
よく通るヴォルフ氏の声に、ヴォルフ氏のパーティーメンバー以外も何人か反応している。どうやら「魔法使い」がレアなのは間違いないようなので、要らん騒ぎの原因になりかねない発言は控えてほしいものだが止める権利もない。
「おいカティア。その小動物が可愛いのは認めるが、どうやらそのご主人様は本物のレアだ。――色仕掛け!」
「えっと、えっと? ……う、うちのギルドに入ってくれない、かな?」
とはいえそこまで深刻な勧誘というわけではないらしく、副官らしき人が笑いながら『
素直な人らしく、俺の方に向かって胸の谷間を強調しながら勧誘の言葉をかけてくる。
直球か。
「だーめだこりゃ!」
「深刻な色気不足」
「お前が言うなや」
「失礼。私には充分な色気があると判断できる」
「みんなひどーい!」
色仕掛けというには「淫靡な雰囲気」というものが圧倒的に足りないことは確かだが、指示しておいてダメ出しをするヴォルフさんのパーティーメンバーたちも大概である。
ひどいというカティア嬢の意見には全面的に同意する所存である。
だけどみんな屈託なく笑っているのは、今日の成果――「
ヴォルフさんの不用意な発言を、曖昧にしてくれるという意味もあるのかもしれないが。
実はこういうのに慣れない俺にはそれなりに効いていたりする。
カティアさんは結構綺麗な人だし、強調された胸は色気としては必要充分以上である。
そういうことをされた経験などないおっさんにとっては、結構な破壊力を伴う。
まあ今の俺の見た目なら、赤面したところでキモいといわれる心配はなかろう。
初心な少年が照れている絵面というのは別にキモくない。
これが本来の(以下略
「――ブレド様」
「――主殿」
そういう、ある意味冒険者ギルドではよくあるかもしれない光景に参加している俺の背後から、つい最近聞いた声が連なって聞こえる。
運営の設定どおりの声をしているから笑う。
というか許されるのであればいろんな台詞を言ってみて欲しい声である。
いわゆる有名声優を採用した、所有欲を刺激し課金を促すうんぬんかんぬん以下略。
まだ振り返ってはいないが、その声と視界の端に映る『
俺は無言で振り向くと、なぜかぶんむくれた顔をしている我が組織の双璧、真祖吸血鬼と鳳凰の化身の手を取って、自分の宿へとすっ飛んで帰った。
目立つ行動すんなって言ったでしょ!
以下、貼り付けたような笑顔で冒険者ギルドを出て行った新人を呆然と見送ることしかできなかったヴォルフ以下冒険者の方々の会話。
「リーダー。……ありゃ色仕掛けは意味ねーな」
「……そうだな」
新人に声をかけ、その新人に手を引かれて無抵抗なばかりか強引に手を引かれるのを嬉しそうにしていた二人の超絶美女に、剛毅をもってなるギルド『
酷いと言えば酷い二人の会話に対して、抗議の声を上げる女性メンバーもいない。
彼女らも男どもと同じように、魂を抜かれたような表情をして呆けるのみである。
「あの
熟練冒険者として、また大型ギルドの幹部の一人として、ヴォルフはあの新人がただものでないことを感じ取ってはいる。
だがそれは十年に一人の才能だとか、二人の美女が傅いていることから相当な良家のお坊ちゃんが才能に恵まれたのかな? 程度のもの。
己が気安く声をかけているその少年が、大げさではなく世界をどうにでもできる力を持った集団の首魁であることを見抜くことなど、神ならぬ身には不可能でしかない。
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