第一章 七話 伽楽
「きゅー?どうしちゃったの?」
先程までとまるで様子が違う少年の言うとおりに、手錠を外す。
「だからどうもこうもねーよ。これも俺だ、枯指妥旧君だ。二重人格ってわけではねぇぜ、勘違いするなよ?」
手錠を外された少年は、脱がされた服を纏う。先刻までの彼と、雰囲気がまるで異なる。丁寧で紳士的だった少年が、まるでそこらで淘汰されているような粗暴で粗雑な男になってしまった。
「あくまで別の側面が全面に出ているってだけで、俺が俺であることに変わりはねぇぜ?シキさんよぉー」
そう言って少年はシキに迫る。先程とは立場が、反転した。
「別に記憶がなくなったわけでも別人格になったわけでもねぇー。あくまで俺は俺なんだよ、シキ」
そう言って、少年は、枯指妥旧は、彼女の額に手を置く。
「………………ッ………」
そして小さな悲鳴を上げて少女はその場に倒れる。
それを片腕で受け止める。
「だから、まぁ、この選択も俺の、枯指妥の選択だ。だから悪く思うなよ?」
腕に抱いた少女に向けて言を飛ばす。
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「てわけだ、カス。理解したか?」
「いやいやいやいや、て、訳だ、じゃないよ。なんでこの女の子を失神させたの?とか性格が急に反転したけどどうしたのとか、その他色々説明すべきところがあるでしょうが!!そんなあらゆる要素が不足した説明で私が納得して満足して過分であると判断を下すわけがないでしょうが」
「てめぇのくだらねぇ言きいてると虫唾が全速力で駆け回るぜ」
「えぇ…。至って正当な訴えなんだがねぇ。あ、あと!!麗しい乙女に向かってカスだとかゴミだとか、、散々言ってくれちゃって!!枯指妥君には人の感情というものが備わっていないのかい?」
「あるよ、人間らしい醜い感情が俺の中で渦巻いてんよ。だから言うんじゃねぇか。俺に心がなかったら、罵声なんて飛ばさねぇよ。良かったな」
「あ、麗しいは否定しないの?」
「事実を否定する気はない」
「あ、え、そ、そんな直球に言うなんて、なんだ、あの、ちょっと、照れちゃうじゃないか」
はぁ、と枯指妥は大きく息を吐き、頭を抱える。こいつと話をすると、どうしてこうもすんなり本題に入れないのだろうか。無駄口をたたくのは好きじゃねぇ。
「お前の性格の悪さはよくわかってんだよ。いちいち小芝居に突き合わせるな。どうせもう俺がなんでお前に会いに来て、何を調べてほしいかなんて全部把握してんだろ?なんならもう全部調べてあったりとかな」
目の前の少女は枯指妥の問に笑みを崩さず答える。
「いやー随分と私をかってくれてるみたいだねぇ。でも申し訳ないんだけど、実はまだなーんにも知らないしなーんにもわかってないんだよねぇ〜。あ、でも、その娘の体を好き放題いじらせてくれるって今約束してくれたら、ひょっとしたら色々思い出すかもしれないよぉ〜?ん〜〜〜????」
何だこいつ、変態か?
変態だったな。
「てかなんで君、この娘にそんな気を使うんだい?話を聞いた限りでは君はこの娘を疎んじてるじゃないか。ならどうでもいいんじゃないかい?どうなったって君の知ったこっちゃないんじゃないのかい?」
早口で俺に迫る。
……そう言われてしまうと、肯定せざるを得ない。確かにこいつは俺にとってはどうでもいい。一宿一飯の恩は与えたし、煮られようが焼かれようが俺の感知するところではない。
「なぁに安心したまえ、流石に私といえどこんな小さな女の子相手に本気で戯れたりしないよ?ちょーっと四肢をもいでお人形にするだけさぁ〜。命までは取らないから安心したまえよ??」
いや変態じゃないな、ただのキチガイだこいつ。
「ちょっと、枯指妥さん。話するんでしたらとっとと終わらせてくだせーよ。その変態にはやってもらわなきゃいけないことが山のようにあるんですぜ〜」
部屋の隅で何らかの作業をしていた、中性的な見た目の少年が口を開く。
「あぁ、すまねぇな、えと、お前名前なんだったけ」
「わざとやってます?ぶち殺しますよ?」
手元の書類に目を向けたまま殺気を込めた言葉を返す。
「あ、思い出した思い出した。てめぇは名前だな、てめぇのお名前は名前だったな。俺としたことがすっかりうっかり、忘れちまってたぜ。いやぁすまん、許してくれよ」
「枯指妥さんは好きなんですが、こっちの枯指妥さんはやはり好きになれませんね」
「んだ?」
「なんでもありませんぜー」
ややこしくて弄くりやすい名前をつけた自分の親を恨むんだな。
まぁ名前の言うことも一理あるし、おれもとっととこんなトチ狂った空間に居たくないんでね、さっさと退出させてもらいたいね。
「で、名前よ、どうせこのキチガイ変態クソ野郎はもうなんか色々資料とか作ってんだろ?とっととよこせよ」
「あ、キチガイ変態クソ野郎ってなんか言葉の響きいいですね。気に入りました。お礼にこれをくれてやりますよ」
そして、名前からボロボロの紙を受け取る。
どうしてここまで紙が傷んでいるのか、気になりはしたが、その紙の表紙に書かれている文に目を奪われる。
「…何も読めねぇんだけど」
見たことのない言語で書かれていた。
なんだこれ。
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