拾った少女がヤンデレで深く深く深く愛されながら暮らす少年の話
@satousaitou
第零 プロローグ
「どこだろうか、ここは」
黒と白を基調とした制服を身に纏った青年がいた。夏休みに入った青年、枯指妥旧(からしだ きゅう)。渡された課題を一日で済ませてしまった彼は、まだ住んで間もないこの街、楓町の探検を、高校生でありながら行なっていた。
気がつけば、見知らぬ、本当に見たこともない場所に出た。
この町に移ってから、確かにまだ日は浅いが、一通り街の構造ぐらいは把握していたつもりだったんだがね。まさか茂みを抜けた先に、そこそこな大きさの湖があるとはね。
「おや」
目を向けた先には、うずくまっている日本では珍しい白髪の少女がいた。その場に小さく丸まっている姿は、昔飼っていたハムスターを思い出させる。
「どうかしたのかい?」
少女に問いかける。しかし答えは返ってこない。眠っているのだろうか。だとすれば、なかなかにたくましい子だ。
「返事をしないと、悪戯しちゃうぞ?」
びくりと背中が跳ねる。なんだ、やっぱり起きているじゃないか。
彼女の意識があることを理解した少年は。「よいしょ」と言いながら、少女を抱える。
「.............」
あれ、抵抗しないのかな?宣言通り悪戯をしたのだが、反応が返ってこないというのは予想外だ。
「どこか体を悪くしているのかな?それなら私が病院にでも連れて行ってあげるが」
これも無反応。意識があることはわかっているのだが、何も返されないというのは困るな。
「.....見ない...で...」
腕の中で、小さな少女が呟く。
「見ないでとは、一体何をかな?」
ようやく返事を返した少女に問いかける。
よかった、喋れない子ではないんだね。
「.....私の、かお.....」
ふむふむ。
確かに先ほどから顔を背けている。よく見れば、彼女のセーラー服もぼろぼろだ。いじめにでもあったのだろうか?だとしたら、顔を見ないで、というのは、コンプレックスからか、はたまた何か外傷を負っているのか。
「すまないね、それはできない」
彼女の状態を確認するためにも、僕は顔を見る必要がある。万が一があってはいけない。
「決して好奇心や、面白半分で見るわけじゃない。だから、すまない」
そういい、彼女の顔を無理矢理(とはいえ傷つけては本末転倒であるため)優しく慎重にこちらに向ける。
抵抗をした彼女であったが、その小さな両腕では、僕には抗えない。
「なんだ、可愛い顔をしているじゃないか。怪我もなさそうだね」
こちらに向けた彼女の顔は、一般的な中高生のそれであった。いや、一般的ではないな。清廉で凛々しく、しかしながら何処か儚い、一際美しい顔立ちをしていた。
アイドルなどにはあまり詳しくはないが、しかし、彼女であれば容姿だけ見れば容易くなれるだろうと確信させる、そんな顔だった。
「だめ....っていったのに..」
美しすぎる顔が、逆に彼女にとってコンプレックスであったのだろうか。だとしたら申し訳ないことをした。素直に詫びよう。
今にも泣きそうな顔で目に涙を浮かべている彼女に、うん?
そこで気づいた。彼女の右の瞳が、普通の人間のような丸型ではなく、ハート型をしていた。薄いピンクに黒が混ざっている。そして、残った片目も徐々にハート型に姿を変える。
何が起こっているのだろうか。
「その瞳は一体どうしたのかな?なにか、持病のようなものなのかい?」
落ち着かせるよう、自身の動揺を悟られぬように、優しく彼女に問いかける。
「.......ごめんね、優しい、お兄さん」
彼女がそう呟くと同時、僕の唇に柔らかい感触が伝わる。
一瞬理解が遅れたが、どうやら僕の口に当たっている柔らかい感触の正体は、彼女の唇であるらしい。
「...ん..」
彼女が口を離す。
これが始まり。
長い長い、一生忘れられない、僕達の夏の始まり。
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