第14話 保健室

 理科準備室ではしんどくて休まらない時、横になりたいとき、両隣の教室で授業をしているとき、光安先生は唯に逃げ場を用意してくれていた。

「あら、春日井さん。こんにちは」

唯は会釈し、保健室に入る。授業中はベッドが空いていることがほとんどで、唯は時々保健室に横になりに来ていた。養護教諭の鈴木先生の気が向いたときは、話に付き合ったりもする。特に唯が話すことはなかったが、先生曰く聞き上手だそうだ。

「昨日ね、テレビでやっていたのだけれど、豆苗って水に浸けておくとまた生えてくるらしいのよ。私今まで捨てていたのもったいなかったんだわ」

唯が長椅子に座る前に鈴木先生は話し出した。今日は話したい気分のようだ。それにしてもその話題は今更ではないだろうか、と唯は思った。豆苗が復活するのは中学生の唯でも知っている。この先生はいつも、絶妙に流行りを過ぎた話題を持ち出してくる。実はわざとなんじゃないかと唯は疑っていた。

「豆苗だけじゃなくて大根の葉っぱの方もね、水に浸けておくと伸びてくるらしいの。中にはレタスを芯から育てたりしてる人もいるって言ってたわ。私さすがにそこまでしようとは思わないのよねぇ」

恐らく昨夜やっていた「主婦の節約レシピ」みたいな感じの番組を見たのだろう。確かにあれには、正直一般人はそこまでしないんじゃないの?みたいなレベルの節約術が紛れ込んでいることがある。

「あとね、タピオカの原料って知ってる?なんとかっていう東南アジアの方のイモらしいの。ジャガイモも捏ねたらああなるのかしら」

ジャガイモがミルクティーに入っているのを想像して、唯は思わずにやけてしまう。甘いのは甘いだろうけど、なんだかねちょっとしていそうで嫌だ。先生は話に満足したのか、デスクワークを再開したようだ。静かな部屋に気を張らなくて良い先生、このちょうどよく気の抜けた会話が、唯は大好きだった。

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