第12話 コラージュ

「今日は、コラージュをしてみましょうか」

次の水曜日、光安先生は画用紙とはさみ、糊とたくさんの広告をもって理科準備室にやってきた。少し物をどけたくらいの理科準備室の机は、光安先生の荷物でいっぱいになった。

「この広告の中から好きなものを切り出して、この画用紙に貼るの。どれを選んでもいいし、どこに貼ってもいい。重ねてもいいしルールはないから、自由に作ってみてくれる?」

唯は広告を見る。スーパーのチラシによるとジャガイモが18円だそうだ。隣町ではバスの運転手を募集している。ホームセンターのチラシには――――

唯は黙々と作業を進める。チラシには思っていたより多くの情報が載っていて、それもプロが工夫を凝らしたであろう配置や色遣いがされている。見る人のことを徹底的に考えられている、という事実は唯にとって新鮮だった。唯の知らない技術によって作られた広告に唯は吸い込まれるようにはさみを滑らせた。


「じゃあ、そろそろいいかな」

唯の手が止まったところで、光安先生は声をかけてきた。完成だ。

「うん、いいね」

画用紙の中心にはハムスターの絵の描かれたペットフードの写真が貼られている。そしてその周囲にはハムスターのおもちゃや野菜、木や水などが円形に配置されている。さながら、ハムスターを飼うゲージの環境を示しているようだ。

「じゃあ、説明してもいい?」

説明?唯は首をかしげる。

「このコラージュはね、コラージュ療法って言われるものなの。今の春日井さんの気持ちを教えてくれる」

そう言いながら光安先生は真ん中のハムスターを指さした。

「このハムスターはね、春日井さんなの」

唯は驚いて目が真ん丸になった。そんなつもりで貼っていたわけではないのに。

「そしてこの周りの円は、、、そうね。春日井さんは『自分は周囲に守られている』と感じているみたい」

守られているだなんて自覚は唯にはなかった。自身の感覚とコラージュの意味が違うことに動揺した。そしてそれは光安先生に伝わったようだ。

「もちろん、このコラージュは春日井さんのすべてを教えてくれるわけじゃないのよ。これが全部正解じゃないの」

唯の表情はなお怪訝そうだ。光安先生は言葉を続ける。

「きっとね、春日井さんは自分を守ってくれている人のことをちゃんとわかっているんだと思う。もしかしたら、それはしんどいことなのかもしれないけどね」

唯には言葉の意味がよくわからなかった。気にしないでいいよ、と光安先生は微笑んだ。

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