文字のまにま、に

立花僚

第1話 不登校になった日

 六月の梅雨の入りが聞こえ始めるころ、12歳の唯は学校へ行かなくなった。始めは、ほんの些細なことだ。宿題ができていなかったのだ。宿題ができていなくては学校でみんなからどう思われるだろう、そんな考えが唯の身体にのしかかるようになった。中学一年生のころだった。


 「どうして学校にも行けないの」。

 金切り声が上がるのは毎朝のことだ。母親は毎日、唯を学校へ行かせようと努力をする。手を上げることはなく、暴言を吐くこともなかった。ただ当たり前を求めていただけなのだ。毎日学校へ行き、授業を受け、帰ってきて宿題をし、時々友達と遊ぶ。そんなことは当たり前のことなのだ。その当たり前を求めている母親を攻めることはできなくて、それでも学校に行くことは嫌で、その繰り返し。いつしか学校に行っていないことが学校へ行かない理由のようになってきて、もう取り返しがつかないと思っていた。


 ある日、母親は突然言った。「もういいよ。今日は休もう」。

 その日から、唯の不登校生活が始まった。

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