五十音は、十人十色

五十嵐 怜

第1話  佐藤蓮による学校紹介?

〈ピッピッピッ ピー ピッピッピ〉

「う〜ん、んん……」

 俺は暖かい布団から出たくなくて、布団の中に潜る。すると、丁度いいタイミングで、

はると〜!学校遅刻するよ〜!」

 甲高い母さんの声が響く。そして俺は、渋々ベッドから起き上がると、俺が通う学校──東青とうせい学校の制服へと着替えた。

「起きたの〜?」

「ふわぁ〜、起きたよ」

 俺は部屋を出て階段をおりる。すると、洗面台には2つ下の妹の姫依めいが立っていた。

「どいてくんない?顔洗いたいんだけど」

「ムリ、台所で洗えば?」

「だったらお前も自分の部屋でメイクしろよ」

「ムリ、鏡小さい」

 いつもこうだ。これが俺──佐藤さとう はるとの日課だ。まぁ、好きで姫依めいと喧嘩している訳じゃないんだが。

「もぅ、姫依めいもどきなさい。そろそろお母さん本気で怒るわよ」

「はぁ〜い、ほら兄ちゃんのせいで怒られる」

「なんで俺のせい!?」

「思春期ってやつだよ、許してあげな」

 父親もやはり男。容姿端麗な妹には、甘いらしい。これで性格もよかったら、パーフェクトなんだけどな。

「ほら、はるとも早く食べちゃいなさい」

「はぁ〜い」

 俺たち家族は4人。いつも朝はこうやって4人でご飯を食べる。

「ごちそうさまでした。じゃあ、行ってきます」

「いってらっしゃい。気をつけるのよ?」

「わかってるよ、小学生じゃないんだし、飛び出さないって」

 俺は昔、ボールを取りに車道に出てしまったことがある。その時の記憶は今もこびりついていて、思い出すだけで怖くなってくる。あの時は車が止まってくれたけど、もし俺に気づいてなかったら……とか。

「おはよう、はると。顔色が悪いな、疲れてるのか?」

「おはよう、和羽おう。疲れてるとか、お前だけには言われたくないよ」

 俺の言葉を聞いた和羽おうは、いつも通りぴょこっとはねた緑色のアホ毛を揺らして首を傾げる。和羽おうの浮ついた様子から、英検には合格してそうだった。こいつ、水沢みずさわ 和羽おうは、俺と同じ3年生。クラスは違うが、学級委員をやっているから、よくうちのクラスにも来る。とてつもない努力家で、昔は寝不足で倒れたことがあるくらいだ。

「あ〜あ、和羽おうがうちのクラスの学級委員だったら良かったのに」

「そんなこと言わないでやってくれよ。朱衣すいもいいやつじゃないか」

「そうかなぁ、人のことを見下してる気がするけど」

「あいつの怪訝けげんそうな目は昔からだよ」

 和羽おうが半笑いで言う。そういえば、和羽おう朱衣すいと小学校からの仲だったな。もしかすれば、俺の知らないような朱衣すいの一面を、和羽おうなら知っているんじゃないか?朱衣すい──柚里ゆずり 朱衣すいは、俺と同じクラスで、俺のクラスの学級委員。いつもムッとした怪訝そうな表情で、俺から見れば見下しているように見える。だが、冷静で頭がいい上に、運動もできるから、結構成績がいいらしい。

「あっ、今日は風紀委員が居る日か」

 うちの学校には、週に3日ほど、風紀委員が立って服装などをチェックする日がある。

「今日は誰なんだろう?」

「さぁ?風紀委員に誰がいるかもわからない俺に聞くか?」

 和羽おうは、人の顔と名前を覚えるのが苦手らしい。どんなに努力をしても、忘れてしまうという。校門に行くと、見慣れた水色の髪の奴と、赤い髪色の子が居た。

「今日は、天音てんと……」

二愛にあくんだよ。水茂みなも 二愛にあくん」

 二愛にあくん?は、ピンク色のネクタイをしていた。この学校はネクタイの色で学年がわかるようになっている。一年生はピンク色、二年生は黄緑色、三年生は水色、四年生……あっ、高校一年生のことな。で、四年生は赤色、五年生は緑色、六年生は紫色。ピンク色のネクタイということは、一年生なのだろう。

「行かないんですか?先輩方」

「えっ?!ああ、行くよ」

 俺は校舎へと歩いた。さっきの奴は、上成うわなり 天音てん。俺と同じクラスの風紀委員。そして、上の方と下の方とで髪色が少し違うという特殊な人だ。まぁ、うちの学校には特殊な髪色の人だらけだけどな。俺は、そう心のなかで静かにツッコミながら、騒がしい教室へと向かったのだった。

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