第3話
「なぁ、宮野。この後、顔を見せ合わないか?」
「おおお!? まじで! ついにそうするのか!」
僕は、ある大学の授業終わりに、帰り支度をしていた宮野に提案してみた。
「アパートに入る直前に、お互いマスクを外して見合おう。宮野に顔を知らないって言われてから、僕もずっと考えてたんだ。」
「なるほどなぁ・・・・確かに、隣にいるのに顔の全貌がわからないって、なんだかミステリアスだと思うわ。」
宮野は、僕の提案に一つ返事で承諾した後「もしさ。」と続けた。
「もし、お互いが想像している顔じゃなかったら、これはこれで俺たちの関係性は変わるのかな?」
「え?」
「いや、だってさ。例えば、恋人とかでお互いの顔を知らないでずっと一緒にいた時、急にお互いの顔が見えて、それが自分と想像している顔とは違っていた場合、前と同じように接することは難しそうだし、逆に気まずくなって距離ができそうじゃない? それと同じでさ、俺と安西がお互いの顔を見たら、何か変わるものがあるのかなって。」
宮野はそこまで言うと、「まぁ、もう3年間一緒にいる友人だし、それはないか?」といたずらっぽく笑った。
僕は、なんとなくその状況を想像してみた。アパートの玄関前で、顔を合わせる僕と宮野・・・・そして、その顔はお互い違うものだった時・・・・気まずくなりそうな空気になる・・・・いや。
「僕は、そんなことにならないと思う。」
僕の言葉に、少し前を歩いていた宮野は立ち止まり、振り返った。
「お、いつになく安西が強気だ。」
「だって、もし顔を見るのなら、その時、僕も宮野も初めてお互いの顔を見ることになる。予想もなにも、初めてのことは予想なんてできないさ。」
僕はそこまで一息で言うと、さらに続けた。
「元々予想していたことが外れて、別の結果になった時、人はその衝撃で立ち上がれなくなることがあるかもしれない。だけどそれは、いつか受け入れて、立ち上がれるようになることもある。」
「つまり・・・・?」
「つまり。僕たちはきっと、最終的にはお互いの顔を受け入れて、また学生生活を送ることができる。」
宮野は、僕の言葉を噛みしめるように「いつか受け入れて、立ち上がれる・・・・」と何回か反芻した。そして、その後「そうだな。」と笑ってくれた。
「なんか、俺もそうなる気がしたわ。」
「だろ? まぁ、彼氏、彼女の関係だったら、難しいこともあったかもしれないけどな。」
「友達関係って、やっぱり最高だわ。」
宮野は、僕の肩を軽く叩いて言った。「これなら、絶対に彼女なんていらねぇよ。」
「あれ、お前はそもそも彼女できないんじゃないのか?」
「こらこら! モテないことは、自覚しちゃいけないぞ!」
僕たちは授業終わりの帰り道を、そんな笑い声で彩りながら帰宅した。
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