8章 諸悪の根源①

ギャロップタイヤの本社を訪れた株式会社ランディア一同を、ロビーで狩野が出迎えた。


狩野『やはりあなたたちだったのね。何の話がしたいのかわからないけど、変な疑いをかけられても困るから話し合いをしてあげる。』


夏木『あら、どうしてわかったのかしら?今日はとことん追求させてもらうからね。』


佐川『私が教えたんですよ。』


夏木『さ、佐川さん?どうしてあなたがここに?』


佐川『我々小島運送の社員にもあらぬ疑いがかけられていますからね。うちの社員を尾行してたのは知ってますよ。…藤木さん。小島運送の専務として、今回のことは見届けさせてもらいます。』


藤木『バレていたのか…でも言い逃れはできないぞ。佐川。』


狩野『とりあえず会議室に場所を移しましょう。石橋社長も待ちくたびれているわ。』



大きな会議室に株式会社ランディア一同は通された。

会議室には大きな円卓。

1番奥の壁側の席に、ギャロップタイヤの社長が背を向けて座っていた。


石橋『お待ちしてましたよ。みなさん。ようこそギャロップタイヤへ。』


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石橋『それで、我々ギャロップタイヤになにやらよからぬ疑いがかけられていると聞きましたが。』


石橋は余裕の態度で株式会社ランディア一同を迎えた。


夏木『本日はお時間をいただきありがとうございます。早速ですが、当社商品であるエコライフを装着している車両が事故を起こしている件について、御社に確認したいことがあり伺いました。』


石橋『おたくの社内の問題ではないのですか?なぜ我々に確認することが?』


夏木『ご説明いたします。内山さん。お願いします。』


内山は手慣れた様子でプロジェクターをセッティングする。


内山『ロールスクリーンをお借りします。』


内山は得意のプレゼンの要領でことの経緯を説明する。


内山『まずはこちらをご覧ください。2ヶ月前から、関西、東北において当社商品であるエコライフを装着した車両事故が急増しました。』


内山は続ける。


内山『我々は社内で事故の真相究明に全力を注ぎ、今に至ります。我々がここにいるのは、この事件において不審な点…いや、何者かが仕組んだことだと確信したからです。』


石橋『ほう。これは面白い。当然、根拠や証拠があってのことなんだろうね。』

石橋は自信に満ちた表情をしている。


会議室で、理詰めの攻防が始まった。


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内山『まず我々は鹿島社長が刑事告訴された際の冒頭陳述から、加硫剤についての内容に違和感を覚えました。それについて自社研究所にあるエコライフのデータで加硫剤が不足している事実がないことを確認しています。』


石橋『ほう。それで?』


内山『そこで我々は事故を起こした車両に装着されていたエコライフが、不良品なのか、また別の理由で加硫剤が足りないものであったのかを調査しました。』


内山は続ける。


内山『結論から申し上げます。事故の原因となったエコライフは、エコライフではありませんでした。』


石橋『何を言ってるのかわからないな。』


内山は石橋の迫力にたじろぐ。


藤木『私から説明させて頂きます。我々はまず事故を起こしたタイヤが中古車販売店である株式会社ユーズドカーから納車された車両に装着されたものであることを突き止めました。』


石橋『それで?』


藤木『そこで株式会社ユーズドカーから納車されるタイヤと我々が製造したエコライフを交換し、問題のタイヤを調査しました。そのタイヤはたしかに加硫剤が著しく不足したものでした。』


石橋『やはり君たちの作ったタイヤが欠陥品だったということじゃないか。くだらん。』


藤木『我々も初めはそう思いました。ですが、調査中の社員が小島運送の社員に襲われ、この件は何者かに仕組まれたことではないかと考えました。』


石橋『それで小島運送とうちになんの関係があるというのかね。』


藤木『我々は株式会社ユーズドカーから注文を受けたタイヤを、当社から株式会社ユーズドカーまで問題なく届けられているか、追跡しました。その結果、途中で御社に立ち寄り、エコライフを内部に持ち込んでいることを確認しています。』


石橋『なるほど。』


藤木『この社屋に、我々のエコライフが保管されているはずです。そうですよね?』


石橋『ございますよ。見に行きますか?』


石橋は、あっさりと社屋にエコライフが存在することを認めた。

驚くランディア一同だったが、石橋の言う通りエコライフが保管されている場所へ向かった。



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佐川『全く、我々の社員が傷害事件を起こしただの、タイヤをギャロップタイヤに持ち込んだだの、言いがかりもいいところだ。』


夏木『行けばわかることですから。』


石橋『ほら、ここです。』


途方もなく広い部屋に、世界中のメーカーが作ったタイヤが並べられていた。


石橋『我々ギャロップタイヤがなぜ業界のトップに君臨し続けていられたか。それはこれらの他社が作ったタイヤを研究し、より良いものを作り続けてきたからだ。この中にはもちろん株式会社ランディアのエコライフもある。』


夏木『なんて量なの…各メーカーの全製品が….2台分ずつ…?』


藤木『エコライフはどこですか?』


石橋『エコライフはそこにある。エコライフがうちの社屋にある理由はわかってくれたかね?それがなんだと言うのだ?』


狩野『これでバカバカしい問答も終わりね。』


藤木『何も終わっていませんよ。小島運送の社員がここに来た理由にもなっていない。』


狩野『小島運送がいったいうちに何をしに来たと思っているのかしら?』


藤木『そこまでシラを切るなら全て話しましょう。あなたたちギャロップタイヤは、まずエコライフの不完全なレプリカタイヤを製造した。ランディアが株式会社ユーズドカーから注文を受けたら小島運送がランディアからエコライフを運ぶため受け取りに来る。それをギャロップタイヤに立ち寄り、レプリカタイヤと入れ替えユーズドカーに受け渡した。違いますか?ここに2台分のエコライフがあるなら、一台分は最近小島運送が持ち込んだ本物のエコライフ。もう一台分は偽物のエコライフということになる。』


石橋『どうしてそうなるんだ?ここは以前から各メーカーのタイヤを保管し続けているんだぞ?』


内山『タイヤマンを舐めないでください。タイヤの製造番号を見ればいつ作られたタイヤかすぐにわかります。ここにあるエコライフは一台分は2ヶ月前に作られたもの、もう一台分は先週作られたもの。それ以外のタイヤも全て先週作られたものです。』


石橋『…何が言いたい。』


内山『この保管庫は、一週間以内に急遽作られたものだということです。』



藤木の口からランディアが導き出した推理の全てが告げられ、内山も違和感を見抜く。


はたしてランディアは悪を捌けるのだろうか。


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石橋『ここが一週間前に急遽作ったものだとして、それがなんだというのかね。』


石橋は食い下がる。


内山『エコライフを廃棄することができなかったんでしょう。このタイミングで廃棄をすれば足がついてしまいますから。だからエコライフがここに存在していてもおかしくない理由を作ったんです。』


石橋『そんなもの予想の範疇を超えるものではないだろう。それとも今ここで、この8本あるエコライフのうち、どれがレプリカタイヤなのか証明できるというのかね?』


内山『そ、それは…』


藤木『見た目は全く同じに作られている…一週間前に作られたものが本物であることは間違い無いが…証拠が…』


石橋『できないのならこれはただの言いがかりだ。こんなところまで出向いて君たちは一体何がしたいのかね。こちらは名誉毀損で訴える覚悟だぞ。』


佐川『もうみっともない真似はよしたらどうだ。自分たちの不良品を他社のせいにするとは…とんだ愚か者たちだ。』


夏木『証拠なら、そろそろうちの社員から報告が来るはずです。』


佐川『そんなものあるわけないだろう。早くしたまえ。』


佐川が話している最中、夏木の携帯が鳴った。


夏木『連絡が来たので失礼します。もしもし、坂茶さんですか?……はい。東北で回収したタイヤに例のものはありましたか?……そうですか……ありませんでしたか。わかりました。』


佐川『ハッハッハ!何もなかったようだな!これで全ての疑いが晴れたな!ご苦労だったね株式会社ランディアの諸君!君たちは終わりだ!』



万事休すか。

藤木と内山はがっくりと肩を落とした。

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