第38話 謁見

 自分がなぜ、こんな場所に居るのかも分からないままファルスノ帝国の皇帝と謁見することになった。


 ドレスを着て、ちゃんとした姿で謁見の間にラインヴァルトと一緒にやって来る。豪華な装飾の室内にを見て、久しぶりに貴族だった頃の振る舞いができるかどうか、緊張しながら皇帝が現れるのを待った。


 しばらくして、謁見の間の空気が変わった。皇帝が現れて、部屋の中に立っている兵士達が緊張した表情になる。ラインヴァルトは、平常のまま。




「よく無事に戻ってきた、ラインヴァルトよ」

「お久しぶりです、陛下」


 親しそうに会話を始める親子の二人。王族でありながら、ギスギスとした関係じゃないようだ。私の知っている王族は、あまり関係は良くはなかったと思う。今、私の目の前で楽しく会話している人達のような、親しい関係ではなかった。


 ラインヴァルトは旅の話、ラクログダム王国が荒れている事、盗賊団を壊滅させた話などを皇帝陛下に報告していた。その間、私は黙って彼らの会話を眺める。


「そして彼女が、幸運の女神の加護を得たと思われるカトリーヌです」

「なるほど、彼女がそうなのか!」

「ッ!」


 突然、二人の視線が私の方に向いた。急に注目されて、私は驚きながら頭を下げて挨拶する。


「お初にお目にかかります。カトリーヌと申します。本日は、皇帝陛下にお会いすることができ、大変嬉しく思っております」

「あぁ、よろしく頼む」


 ラインヴァルトとよく似ている、壮年の男性が笑顔を浮かべた。失礼はないはず。ちゃんと挨拶できただろう。


 だけど、やっぱり私は幸運の女神の加護を得た人物だと思われているらしい。なぜなのか疑問に思っていると、皇帝陛下が説明してくれた。


「予言には、こうあった。東の森の中、盗賊に襲われている少女を助け出すように。その女性は幸運の女神の加護を得た者であり、その存在を大切に守ってあげることが出来たのならば、多くの人達に幸福を運んでくるだろう、と」

「幸福を運んでくる?」


 私の漏らした声に、ラインヴァルトが頷いた。


「俺達は、君が幸運の女神の加護を得た者だと確信している」

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