第28話 彼の正体

「だけど俺たちは、この街に留まり続けるのは非常に危険だと考えている」

「どういうことですか?」


 これから街に住むことになる。そういう話かと思っていたら、違ったようだ。別の考えがあるらしい。


「この辺りは、まだ落ち着いている。だけど、周辺にある他の街を偵察しに行ったら酷い有様だった。近い将来、もっと酷くなっていくだろう。それほど、ラクログダム王国は荒れている。崩壊寸前なんだ」


 しばらくこの街から出ていない私には、他の街の状況というのが分からなかった。そんなに酷いのか。ラインヴァルトは、とても真剣な表情。彼の顔を見ると、かなり深刻な様子だったことが伺える。


 話を聞いた私は、今後の予定について尋ねてみた。


「それじゃあ、この街から早く離れたほうが良いのでしょうか? 王国以外の、他の国に行くということですか?」

「そうなんだ。これから俺達は、ファルスノ帝国に向かおうと考えている」


 ラインヴァルトは頷いて、目的地を教えてくれた。聞いたことがある名前の国ね。ラクログダム王国に隣接していて、とても戦争が強い国だったはず。


 領有している土地も広いとか。それ以外は、あまり詳しくない。ファルスノ帝国に関する知識は薄かった。でも、なぜファルスノ帝国に向かうのか。その国を目的地に選んだ理由は何かしら。


「ファルスノ帝国に行けば知ることになるだろうから、先に告白しておくよ。実は、俺は帝国の皇子をやっている」

「え?」


 あっさりと、彼は言った。言葉が耳に入ったが、どういう事か私は理解できない。ラインヴァルトは、なんて言ったのかしら。おうじ、って聞こえたけれど。


 おうじ、おうじ、皇子……? おうじ、ってあの皇子?


 つまり彼は、ファルスノ帝国を治めている皇帝の息子、ということなのかしら。


 彼の告白を聞いた皆の反応は、様々だった。


 ラインヴァルトの仲間たちは、普通の表情だ。事前に知っていた、ということね。彼らも、帝国の関係者なのかもしれない。


 私と一緒に話を聞いていたメイドのマイユ達は、かなり驚いていた。私と同じで、知らなかったということかしら。


 執事のゲオルグと御者のタデウスは、平然としていた。彼の正体を予想していた、ということね。それとも、事前に話を聞いていたとか。


 いろいろと考えてみるけれど、頭がこんがらがって分からなくなる。私の驚きなど気にせずに、ラインヴァルトは話を続けた。


「それで、俺たちの旅に街の人達も同行させるつもりだ。彼らを国外に脱出させて、帝国まで連れて行く。そして、新しい土地を与えて生活させようと考えているんだ。俺の権限で、しばらくの間は税金も免除する」

「えーっと……?」


 話を聞いていたら衝撃的な情報が多すぎて、色々と分からない事だらけ。


 私はしばらく考え込み、ラインヴァルトの話を聞いて知った情報をゆっくりと整理していった。


 つまり私は、ラインヴァルトと一緒にファルスノ帝国へ行く、ということね。

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