第16話 後始末

「アレア、彼女の様子を診てやってくれ」

「分かりました」


 挨拶したラインヴァルトが振り向き、誰かに話しかける。森の奥から、済んだ声で返事があった。そして出てきたのは、瞳が印象的な無表情の若い女性。


 ラインヴァルトの彼女だろうか。もしかすると、妻かもしれない。二人の間には、慣れ親しんだ雰囲気があった。


 そんな彼女が、目の前まで近寄ってくる。背が高くて、私は下から見上げる。


「アレアです。よろしくおねがいします」

「あ、カトリーヌです」


 彼女は無表情のまま、丁寧に挨拶してくれた。その後、私は身体のあちこちを診てもらった。怪我していないか、どこか痛めていないか。


 どうやら、彼女には医術の心得があるようだ。


「ここは、痛くないですか?」

「はい、大丈夫です」

「こっちは、どうかしら?」

「そっちも大丈夫だと思います」


 すぐに診察が終わって、アレアから結果を伝えられた。


「問題はないようですね。髪の毛を引っ張られたり、頭を殴られてたみたいだけど、怪我一つないです。運が良かった」

「えっと、ありがとうございます」

「貴方達も。怪我してないか診るわ」

「我々も、よろしいのですか?」

「もちろん」


 私と一緒に同行していた執事や御者、メイドたちの状態もアレアに診てもらった。幸運なことに、彼ら全員が怪我もせずに無事だと診断してもらった。




 ラインヴァルトには、アレアの他に四人ほど仲間が居るようだった。全員で六人のパーティー。この森の中に今、合計すると11人の人達が集まったことになるのね。かなりの大所帯だ。


 おそらく、彼らは冒険者なのだろう。ギルドから依頼を受けて、人を襲ったり村を荒らしたりするモンスターを退治したり、行商人の護衛をしたりする。そんな職業があると、聞いたことがあった。


 私達がアレアに診断されている間に、ラインヴァルトたちは作業していた。倒れた盗賊たちの遺体を運んだり、破壊されてしまった私達の馬車を確認してくれたり。


 ラインヴァルトが中心に立って、仲間たちに指示している。彼が、この冒険者集団のリーダーなのだろう。そんな彼らの会話が聞こえてくる。


「こいつら、おそらくリンドドバタ盗賊団だ。街で噂になってただろう」

「そうか。なら、死体を持って帰れば報酬金が出るかな」

「えぇ。顔も分かるんで、運んで帰りましょう」

「聞いた話によると、アジトは近くにあるはず。調査しに行く?」

「そうだな。そっちも潰しておいたほうが良いだろう。パーティーを二組に分ける。彼女たちの護衛に一人だけ置いて、俺達はリンドドバタ盗賊団のアジト探索と破壊に向かう」

「「「了解!」」」


 とても真剣な表情のラインヴァルトが、テキパキ命じていく。それを聞いて、彼の仲間が機敏に動き出す。素人の私でも分かるぐらい、洗練された動きだった。あんな感じで、私達を助けてくれたのだろう。


 そしてラインヴァルトは、アレアを置いて森の中へ入っていった。盗賊団のアジトを探すために。


 私達は大人しくして、彼らが無事に戻ってくるのを待った。

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