道端で色っぽい声で喘ぐトチ狂った鳥を拾ってしまったから、 一生分の後悔をしながら「幼女ならないかなぁ〜」と嘆いてみる

さーしゅー

色っぽい声で喘ぐトリを拾った

※この作品で登場する「トリ」は、現実における鳥と呼ばれるものとは全く無関係であり、あくまでも鳥の体裁をとった法律の及ばない架空の何かであることを、ご容赦ください。

 






 トリを拾った。

 

 

 茹だるような陽射し照りつける、夏休みの一ページ。

 

 アパートの敷地の一歩先。


 アスファルトの道路端にソイツは落ちていた。

 

 何かに轢かれたのか、墜落ついらくしたのかはわからないけれど、具合悪そうにぐったりと横たわっている。


 手乗りサイズで、毛色は無駄にカラフル。そして、目は冗談のように湾曲している。

 これなら、パーティグッツの人形と言われた方がまだ納得できる。

 

 そんなちんちくりんを前に、俺は一歩も動けなくなっていた。


 

 なぜなら……。

 



「アンッーアアッンーアーン……」

 



 何をトチ狂ったのか、ソイツが真っ昼間から全力で喘いでいるからである。しかも、ムダに艶やかな声で。

 

 その奇妙な声に、俺の身体中から冷や汗がダラダラと流れる。ソイツのせいで、俺の社会的立場が危機に脅かされているのだから。

 

 この光景は他から見れば、どう見えるだろうか。


 一択だ。

 

 『そこの大学生(俺)のペットが卑猥なことをしている』

 

 俺はこの状況をなんとかすべく、ソイツを持ち上げると、小さな体を揺らしてみた。これで少しは治るだろうと、淡い期待を寄せながら。


「アアッンーアーン!!」

 

 だけど全くの逆効果!!


 泣き止むどころか喘ぎ声が大きくなってしまった! 


 俺はそのボリュームにパニックになって、力のあまりとにかく揺らした。その結果、さらにボリュームはあがっていく。

 

 そして、もうどうしようもなくなった時、俺の脳内でプツンと何かが弾ける音がした。


「なんで、俺はこんなちんちくりんを持ち上げたんだ!!」


 ヤケクソに叫んだ。


「そもそもなんで、俺はこんなボロアパートに住んだんだ! 内見をもっと沢山しとけばこんなことにならなかった!!」


 俺の叫びは喘ぎ声にかき消されて周りには聞こえない。


「いや、そもそも大学に入学したのが間違いだった! 遊べるなんて言ったの誰だよ!!」


 そんな叫びの応酬(一人)をしていると、突然俺の声だけがはっきりと取り残される。

 

「あれ? 鳴きやんだ?」

 

 手元に目を落とすと、ソイツは至って落ち着いた様子で、俺の人差し指に頭を押し当て、くりくりと擦り付けていた。

 

「良かったぁ〜」

 

 俺は胸を手で撫で下ろす。これで明日からも平和な日常が続いてくれる。

 そんな、安堵と共に手を止めた瞬間に…………。

 

「アンッーア……」

 

 なんて言うことか、またも全力で喘ぎ出した。

 

「あーわかったわかったから」

 

 俺は大慌てでソイツの頭をなでる。すると、またぴたりと泣き止んだ。

  

「うーん……保健所に連れてくか」


 ソイツを自宅で手当をするつもりだったけど、この鳴き声じゃあ、家には連れ込めない。


 俺は指先でソイツを撫でながら、左手でスマートフォンを取り出した。ソイツはトリらしくカクカクとキョロキョロとしつつも、スマホを目で追っていた。そして……。

 

「スキスキスキスキスキスキ……」

 

「…………はっ?」


 まるで、さっきまでの鳴き声は嘘ですと言わんばかりに、突然、鳴き声を変えてきた。しかも、さっきより明らかに小さな声量で。


「スキスキスキスキスキスキ……」


 戸惑う俺に対し、ソイツはウソジャナイヨと言わんばかりに、新しい鳴き声を披露する。

 

「も……もしかして……お前、言葉がわかるのか?」


 この反応は、『保健所』と『好き』の言葉の意味を理解して媚びてきた可能性があった。


 俺はソイツに未知なる期待を寄せた。


 こんなちんちくりんなルックスをしているんだ。地球外生命体であってもおかしくはない。俺のマニアックな心がくすぐられた。 


 だけど……。

 

「スキスキスキスキスキスキ……」 

 

 だけど、待てど暮せど十五分。さっきと同じ鳴き声を連呼するだけだった。

 


 * * *


 

 俺は持ち帰ったトリを観察した。

 

 バタつくかと思いきや、案外素直に身体を預けてくれて、ソイツの生態的な調査はスムーズに行えた。


 …………が、調査結果からは全くと言っていいほど何もわからなかった。

 

 ひよこまで小さいわけでもないけど、手のりサイズの大きさ。


 某小説投稿サイトのマスコットキャラクターみたく恰幅がいいわけでもなく、比較的細い体つき。


 どちらかといえばインコに近い印象だった。

 

 ただ、配色がどのインコとも一致しない。

 

 ソイツの毛色は七色の絵の具を適当にぶちまけたような色をしていて、羽が何色で頬が何色とか塗り分けなんてものはない。


 唯一、クチバシだけは単色でメタリックブルー。

 

 要するに、もうカラフルとしか言いようがない。

 

 そして、色が変なのはまだいいにしても、問題は、このへの字にひんまがった目である。たぶん眼球は通常の鳥と同じでまんまるなんだろうけど。その窓に当たるまぶたの形は、冗談にも程がある。

 

 結局半日と言わず全日かけて調べたが、何にもヒントが得られなかった。

 が、最後にやけくそながら画像検索をかけると、なんと百万件以上のヒットがあった!


 俺は思わず画面に飛びついて、スクロールしていくと……。



 

「何が、鳥山課長じゃい!!!!」


 ディスプレイにはソイツそっくりな目をした、うすらハゲのキャラクターのグッツが並んでいた。若い女性に人気らしい。

 

 俺は匙ではなく、スマホを投げて、ベットに身を投げた。

 

「なんなんだこのトリ……」

 

 俺は大きなため息をついた。

  

「スキスキスキスキスキスキ」

 

 ソイツは俺の苦労お構いなしに、ダンボール製の鳥かごで元気に動き回っている。

 

 今思えば、完全に拾い損だった。

 

 結局怪我もなければ、元気が有り余っているようにしか見えないからだ。

 もしこれで病気であるなら、それこそが病気だ。

  

 道路でぐったりしていたのは、拾われるための演技にも思えてきて、狐につままれたような気分に襲われた。

 

「本当になんなんだろうあのトリは…………種類が分からないから、性別も分からないんだよね」

 

 トリには性別を分けるような身体的特徴があるわけではない。それこそ解剖しないと分からないのかもしれない。

 

「じゃあ、解剖するか……」

 

「スキスキスキスキ!!」

 

 ソイツは突然バタバタと暴れはじめた。


「わかった、わかったから! 解剖しないから落ち着いて!」


 俺がそういうと、ソイツは本当に大人しくなってしまう。

 

「でも、鳴き声はメスなんだよなぁ……」


 それこそ、少しドキッとしてしまくらいには、声が艶やかである。

 

「最近見たアニメでは、鳥が幼女になってたよな? お前もならないかなぁ?」

 

 持って帰ったことを後悔した俺は、なんとなくそうつぶやいた。


 別に幼女が好きなわけでは無く、内容はなんでもよかった。ただ、鶴の恩返しみたいに何かあったら、この癪な気持ちも晴れるのになぁ……なんてぼやいてみたわけだ。



 だけど……。

 

 

「スキスキスキスキ……」


 

 ソイツは見た目がとんでもないこと以外は、完璧にただのトリだった。

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