君と僕
モニタ_R
第1話
やった、やった、ついに言えたぞ!
そう言いながら俺はディスプレイの前でガッツポーズをした。目の前のディスプレイにはツイート画面が写っている。俺のフレンドとカップルになりましたとつぶやくためだ。
────
俺の名前は輝島ミキオ、21歳のフリーターで彼女なんぞいた事もない青臭いガキである。
リア友のナオヤに誘われて遊んだバーチャルゲームにどっぷりハマり今では毎日VRを装着し第二の人生を満喫している。
この一年半というもの自らの手で作ったカボチャや適当なパブリックアバターを使い、身内とゲームで遊んだり公共の場でふざけ倒してるだけであった。
. . .彼 ─いや、彼女というべきか がこのゲームにやってくるまでは。
彼女の名前はナミ(Nami_IZA)、突如ゲームを始めましたというツイートを引っさげ彗星の如く現れた新規ユーザーであった。
当初彼女のツイートは軽く流していただけであったが月日が経つにつれ、RTでまわってくる徐々に洗練されていく写真に惹かれていった。
彼女のアバターも当初は昔の俺と同じくただのパブリックアバターであったが、ある日を境に購入したのであろうヒツジの角が生えた女の子に変わっていた。
ツンとした目にお洒落な服装、そして他の人より控えめだが強調されている胸に俺はつい写真をいいねした後にフォローしたのであった。
『その写真素敵です!』 『センス抜群です!」』『かわいい!』
自分でもややわざとらしい、とってつけたようなリプライを送りつつどこかでお近づきになれないかと模索する日々を過ごしているとある日いいねだけであったリプライに初めて返信が届く。
『ミキさんいつもありがとうございます( ・ิω・ิ) このアバターめっちゃ可愛いんでぜひミキさんも...!』
そう言われちゃあ買わなきゃだろうと思った時にはすでに購入ボタンを押していた。
『俺も買いました!』
『すごい!僕と雰囲気似てる笑』
『やっぱナミさんの改変好きだからかな無意識にねwww』
『そうだ、ナミさんにフレンド送りたいんですけど良いですか?』
『いいよー!IDはね...』
自分でも驚いた。少し前までは高嶺の花というべき彼女が今や自分のフレンドリストに名前が載っているのだから。
(こんな、うまく進んでいいものなんだろうか)
(まあ、いいさ。どうせゲームなんだし)
......
あきらかに自分には不釣り合いであろうアバターを使い、しかも推しにそっくりな改変まで誂えてるのだから自分でも露骨な擦り寄り方だと呆れていた。
使い始めた当初はリア友にも「メス落ちか?」と言われ、海外のフレンドからも「似合わないよ」と言われる始末であった。
ただ 同じアバターを使い、自分の横で一緒に動画を見ている彼女を見るたびにええい、構うもんか こんぐらい露骨でも誰も気に留めやしない、と自分に言い聞かせていた。
時間は深夜2時。ナオトと俺、そしてナミさんや周りのフレンドは大きなスクリーンに映る食事風景に夢中であった。VRに来てまですることか?と当初思ったが 気軽さと一緒に見るという楽しさは唯一無二のものである。
「いやさ、あんだけ食べてハラ壊さないのかな〜」
「意外といけるでしょ、俺もそんぐらい食えるよw」
「あはは、ミキさんよく食べるもんね」
中身があるようでない、そんな会話も楽しい。と思っていた矢先 一人のフレンドが寝ると宣言してから次々と寝始めた。
「ワタシも明日学校あるだから早く寝に行きますね」
「おう、明日も頑張れよチョル」
「俺も寝るわ〜、明日平日だからはよ寝ろよミッキー」
「ちょwwそれリアルのあだ名だろナオ まあ、おやすみな」
「はぁ〜あ 寝たくないなあ 俺もどうしようかなあ」
「わかる〜てかさ、今少し時間あるかな?」
「おん、まあ明日朝からシフトだけど睡眠時間削ればいいし。」
「体に悪いよ、それw 実は寝る前に写真撮って寝ようと思ったんだけど」
「え!いいよ いくいく ナミさんの写真好きだし」
ナミが出したポータルに飛び込むと、リアルは冬なのに眩しいぐらい日差しが照るビーチに居た。
「水着入れたから、夏には早いけど撮りたくてね。」
そう言いながら左手を右から左に動かし、
アバターを変更する。
「わぁっ」
思わず俺は声に出してしまった。いつもの可憐なアバターにオレンジ色の水着、少し大きめの麦わら帽子。そして帽子の右側には小さなひまわりが飾られている。
「...きれいだ」
「えーそんなに?なんか恥ずかしい.」
そう言うとナミは体をモジモジさせながらこちらをじっと見てくる。これもう女の子だろ。
彼は男性にしては声が高く、工夫すれば女声もいけるのでは?というぐらいだ。それがわざとやっているのか自然なものなのかは到底検討もつかないが、今の俺には心地よく聴こえる。
「俺も付き合いますよ、撮影」
「ほんと?僕も自分で撮るけど何枚かはお願いしようかな。」
パシャッ パシャッ パシャッ
ポーズを決める彼女を次々とファインダーに収めていく。写真撮影なんかリアルではからっきしだが、バーチャルだと自信ありげに撮ることができる。
「じゃあ胸元を強調してみようかw」
「ちょっと!ミキさんまた変態要素出してきて」
怒る顔に瞬時に切り替わる。所詮コントローラーで表情を変えているだけだがまるで本当に怒っているかのように錯覚する。かわいい。
ついでにツーショットも何枚か撮ると寝る前だということも忘れて、ふたり海を前にして砂浜で座っていた。
「俺も水着入れればよかったなあ」
「えー、似合うと思うし入れればいいのに」
「やっぱそうかな?ナミさんが言うなら正しいね」
「もう」
波の音にカモメが鳴く声。そして他愛もない会話。
およそ10分ぐらいの会話が1時間に感じられるぐらい濃密な時間を過ごしていると、ナミが口を開いた。
「...ミキさんにだけ言えるんだけどね」
「おう、どしたん?」
「実は、僕はニューユーザーじゃなくて一回アカウントを作り直してるんだよね」
「えっ、そうなんだ 何かあったの?」
「うん、いろいろ.....なんかすごい疲れちゃって、今までのフレンドを全て捨てて転生したんだ。このアバターも前のアカウントの頃から使ってるやつ。」
転生、かすかにその単語を聞くようになったのは一年過ぎてからだろうか 。
何かトラブルがあったり、人間関係に疲れた人や誰かから逃げたり避けるためにアカウントを作り直すことだ。
俺は正直その文化が理解できず、やめるか同じアカウントで問題に向き合えばいいのに。と少し卑怯な行為だなと考えていた。
しかし、面と大好きなフレンドにそう言われ
その考えも薄れつつある。
「ごめんね、いきなりこんな話して。
ミキさんはいつも僕のことを気にかけてくれるし、お互いよく話すからなんか話せる気分になっちゃって。」
「いいよ、そんなことがあっただなんて知らなかった。」
沈黙が続き、自分がまた口を開いた。
「あのさ、その...困ったことがあったならいつでも言ってよ フレンドじゃないか」
「転生した訳は聞かないし、苦労したってのは十分理解できる いつもお世話になってるし、今度は俺が助けたいんだ。」
君を守りたい
だなんて恥ずかしいセリフは言えなかった。するとナミが手を口に当ててクスクスと笑った。
「おかしい..ごめんね笑っちゃって いつも冴えないミキ君がなんかかっこよく見えたからさ」
ここに来てわかったことなのだが、俺は意外に天然ボケな節があるみたいで周りからもナミさんからもよくいじられていた。
「でも、ありがとう」
「これからも友達で居てね」
そう言って彼女がニコっと笑う表情に変えると立ち上がり、そろそろ寝るねと一言言ったのでお互いにおやすみと言い別れた。
バタン
「は〜〜ぁ」
俺は砂浜に倒れ込み、自室のひんやりとした感覚を背中に受けながらふと考え事に耽る。
(なんか自分らしくないこと言っちゃったな)
(柄にもないことするからだな...)
(ナミさん、大変だったんだな いつも明るい彼女だから悩みなんてなさそうだと勝手に思ってた...)
(ナミさんと話してるとすごく安心する
心の芯が暖かくなる感じがする)
(これって、恋?)
(いやいや、彼女は男だし、かわいいけど...しかもリアルのことなんて何一つ知らないし)
(なんだか辛いな なんで辛いんだろう わからないけど...)
(でも、頼りにされたい感情と離したくなたい感情が渦巻いてる)
(自分はなんてキモいんだ、あまつさえ同性に...)
「はぁ...」
ふと口から飛び出したため息は宙を舞って戻ることはなく波の音に掻き消されていった。
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